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志保しほちゃんって何考えてるのか分からなくない?」

「ああ、分かる。たまに空気が読めないというところもあるし……」

「別に嫌いじゃないんだけどね」


 小学校の頃、友達だと思っていた子たちが、志保のいないところで口にしていた言葉。

 きっと悪気はなかった。

 悪口とも思っていなかったと思う。

 実際、それ以降も彼女たちの付き合い方は変わらなかったから。


 でも、その些細な出来事は志保の心の中にずっしりと残った。

 人付き合いそのものを苦手に感じるようになったのもその頃からだ。


 中学生の頃は誰かといるよりも、一人の時間を優先するようになった。

 運動は苦手だから、必然的に勉強をする時間が増えた。

 お陰で偏差値の高い高校へ進学し、より一層勉強に没頭した。

 その結果、志保は国内でも五本の指に入る学力の大学に合格。


 最初は一人暮らしに否定的だった親が、県外の大学に進学することに親が口を挟んでこなかったのも、大学の知名度が後押しをしたのかもしれない。


 高校卒業から大学の入学式まではあっという間だった。

 入居するアパートを探し、必要な家電を揃え、ほんの少しだけ自炊の練習をした。

 生活が目に見えて変わっていく中、人付き合いが苦手ということだけはずっと変わらなかった。

 

 入学初日のレクリエーションが終わり、素早く帰り支度をしていると、一人の女子生徒が声をかけてきた。


「ねえねえ!」

「はい?」

「今日の夜、学科の皆で親睦会をしようと思うんだけど、あなたも来ない?」

「ああ……」


 それを聞いて、正直行きたいとは思わなかった。

 それに大学生のコンパと言えば、ひたすらお酒を飲むというイメージがあった。


「……私未成年ですよ?」


 何となく口にした一言。

 その瞬間、明るかった女子生徒の顔がすうっと無表情になった。


「ああ、うん。そうなんだ」


 志保は心の中で首を傾げた。


「ごめんね、やっぱり年上がいると肩身狭いよね」

「えっと、別にそういう訳じゃないんですけど……」

「じゃあ、来る?」


 彼女の態度は冷たかった。 


「……いえ、辞めておきます」

「そう、分かった」


 女子生徒はあっさりと踵を返す。

 それから去り際に志保に向かって言う。


「別に未成年でも来る子はいるから」

「は、はあ……」


 会話がかみ合っていない。

 志保は少し考えて、ようやく彼女がそう言った理由が分かった。


 未成年という言葉が癪に障ったのだ。


 何年も浪人して入学する学生も少なくない。

 偏差値が高ければなおのことだ。

 そして恐らく、彼女もその一人だったのかもしれない。

 ただ、当然志保も悪気があった訳ではないのだ。

 謝ろうとしたが、既に講堂に彼女の姿は無かった。


「……だから嫌なのに」


 志保は一人で講堂を出る。

 廊下には数人の学生と清掃員の姿があった。


「こんにちは」


 はきはきと気持ちの良い挨拶をしてきたのは清掃員の女性だ。

 女性の顔を伺うと同時に、志保は気付いた。

 清掃着の襟から覗く女性のうなじのあたり。

 そこにある有機デバイスの存在。

 彼女は人間では無く『AI』だ。


「どうかされましたか?」


 そう尋ねられ、志保は逃げるようにその場を立ち去った。

 結局人に限らず、AIとも会話できない自分が嫌になる。


 少し離れた場所で振り返ると、AIの女性清掃員は何食わぬ顔で掃除をしていた。

 どれだけ冷たい態度をとっても、AIは気にしない。

 人付き合いもこれだけ楽だったらいいのに。

 志保はそう思わずにはいられなかった。

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