第八話 レベル上げ
魔界――。
「だんなー」
例のごとくスライムが近寄ってくる。
「……」
ヘルデビルが腕を組み、何か考え事をしている。
「ラーーーー……」
「……やめい」
「へへっ。考え事ですかい?」
「……一分とは、短いものよな」
「あー、召喚時間ですね」
現在、シンカが召喚獣を使役できる時間はちょうど一分。それはまだ、レベルが5にも届いていないということだった。
「シンカちゃんたちって、今レベルどのくらいスかね。3とか4くらいかなあ」
「……」
「あ、そういえばあの杖ってどうなんでしょ。レベル上げの役に立ってるんスかね」
「……火力がありすぎて、姉……トーチとやらに当たる、と言っていた」
「なるほど、強すぎるのも考えもんですねえ」
「……気長に待つしか、ないのか」
「うーん。それならだんなが魔物を狩りまくるとか。あっしらの倒した魔物の経験値は、召喚士とそのパーティーメンバーに分配されやすからね」
「……なるほど」
「ただ、そんな事やっちゃっていいのかなぁみたいな感じはありますけどね。だんなを初級の召喚士が使ってることが不自然なことなので……」
その時、光が強めの魔法陣が現れた。
「……行ってくるぞ」
「まぁ、程ほどに……って感じで」
ヘルデビルは魔法陣に飛び込んで行った。
「まあ、加減なんて無理でしょうねえ……」
いつもの森に呼び出される。
「あ、こんにちはデビさん」
「……こんにちは」
挨拶を済ませると、すぐさまトーチが戦っている魔物を蒸発させる。
「おわっ! いきなりやるなっつーの!」
トーチの文句を聞きながら、漆黒の羽を広げ、天高く舞い上がる。
「デビさん!?」
「なーにやってんのあいつ」
空の上から森を見下ろし、木々の隙間から見える魔物たちを蒸発させていく。
「あっ」
シンカ達の体を一瞬、虹色の光が包み込む。これはレベルが上がった時に起こる現象だ。
「なんか知らないけど、レベル上げに協力してくれてるみたいね」
「すごい……」
上空を見ると、ヘルデビルがすごい速度で飛び回り、腕をあちこちにかざし、魔物を消滅させている。
やがて一分が過ぎ、魔界に戻る頃には、シンカ達のレベルは3上がって7になっていた。
――魔界。
「あ、おかえりッス」
「……うむ」
「どうでした?」
「……かなり上がった、と思う」
「……そッスかぁ」
スライムがなにやら浮かない表情で答える。
「いやね。忘れたんですけど……シンカちゃんのレベルが、5以上になったとしたら……呼び出せる召喚獣のレベルも、上がっちゃうんですよ」
「……と、いうことは」
「あっしが呼ばれなくなって……だんなが魔法陣を利用することが……」
「……なんということだ」
「次のレベルの召喚獣に、交渉するしかないッスかねえ」
「お前の一つ上は、確か……」
「ええ……」
「……やつは苦手だのだが」
二人は先の事を考え、不安な気持ちになった。
その頃、人間界では――。
「シンカ、あんたレベル7になったなら、新しい召喚獣呼べるんじゃない?」
「うん、そうだね」
「ちょっと試してみようよ。あそこに手ごろなやつがいるし」
トーチが指を差した先で、トコトコと黒いニワトリのような魔物が歩いている。
「さっきので森の魔物、いなくなっちゃったんじゃないかと思ったけど、運のいいやつね。いや、悪いのかな」
「あはは……」
苦笑いを浮かべながらシンカが杖を構え、呪文を唱える。
「ウユジンカ・ウヨシセ・マデイオ……出でよ! ゾンビ!」
地面に金色の魔法陣が現れ、ボロボロの服をまとい、体のあちこちが腐りかけているゾンビが現れた。
「う……おぉ……あ?」
ゾンビがきょろきょろと辺りを見回す。
「あ、こ、こんにちは」
「……お、まえ……おれ、呼んだ?」
「はい、そうです」
「あ……あ……命令……しろ」
「あ、あの魔物を、攻撃してください」
前方にいる魔物を指さす。
「あ……りょ、かい」
しゃべり方とは裏腹に、意外な速度で魔物近づいて行き……噛みついた。
「ギョエエエエ!」
「うま……うま……」
両腕でしっかりと魔物の体を掴み、バリバリと食い散らかしていく。
「うげぇ」
口の両端にシワを寄せ、トーチが顔をしかめている。
「わ……わぁ」
見てはいけないものを見るような目で、シンカがゾンビの食事を見つめている。
「うま……かっ、た。ごちそ……さま」
両手を合わせると、綺麗に魔物の骨だけを残し、ゾンビは魔界に戻って行った。
「……えっぐいわね、あれ」
「う、うん」
「当分スライムでいいんじゃない。あたし、あのゾンビと一緒に上手く戦う自信ないわ……」
「う、うーん」
ヘルデビルたちの心配事は解決したが、後日、ヘルデビルはヨダビシに呼び出され、魔物乱獲禁止令を出された。