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転生したのに歩兵でした  作者: S.菅原
2/2

死んだ。

 男子諸君はきっと、一度はヒーローに憧れたことがあるだろう。ボタンひとつで変身し、怪人を倒すヒーローに。勿論、俺もその一人だった。

 俺たちの目に映ったヒーローは、強さの象徴だった。正義とか守るとか、そういった文句は一切ない、身体的な戦闘行為とその決着が、俺たちをテレビへ向かわせた。ヒーローが怪人を爆破させたときの爽快感、興奮、高揚感。自分もこうなりたいと何度もDX変身ベルトのボタンを押した。

 そう、俺たちは「強さ」そのものに憧れていたのだ。

 だが、何時しか俺たちはDX変身ベルトのボタンを押さなくなっていき、渋々とヒーローではない自分を受け入れる。いや、諦めると言った方が近い。その後も色々と諦め続ける。勉強、恋、夢。数えたらキリがない。


 俺はこうして少年から男になった。

 そして俺はつまらない男だった。


 当然、22年の人生もつまらないものだった。


 夢も希望も趣味もなく、人間関係もうわべだけ。親友なんていない。ただ淡々と大卒まで親の金で下駄を履き、適当な会社で適当に仕事をする。幸せなんて考えたことも無かった。でも女にはモテたかった。だがそのための努力はしたことが無かった。勿論、彼女が出来た事なんて一度も無かった。


 あぁ、死ぬ。

 何も遺せずに、死ぬ。

 名誉も、誇りも、喜びも、悲しみも、愛の言葉も、親への感謝も。


 そして死ぬ。

 死ぬ。死ぬ。死ぬ。


 金曜日、そして今日は給料日。手取り14万という少ない金を握って調子に乗り、一人で飲み過ぎて夜道でコケて死ぬ。頭から血が止まらない。指一本動かない。何も見えない。


 あーあ、つまんね。

 せめて、童貞は卒業しておきたかったな。

 風俗でもいっときゃ良かった。


 何が恋人だ、純愛だ。クソったれ。何もかもクソったれだ。死ね、俺以外の幸せな奴も死ね。


 みんなみんな死んじまえ。


 あーあ。


 こうして俺、坂本蓮は22歳で死んだ。

 本当に、本当にクソみたいな、空っぽな人生だった。



――――。…………。

―――――!!



 あぁ、うるさい。

 もう俺は死んだんだ。


 「―――――!」

 だからうるさいって。あぁ、きっと幻聴だ。もしかしたら死ぬ寸前で頭が狂ってるのかな。


 「――――リアン! ギリアン! ギリアン二等兵! 起きろ!」


 誰だよギリアンって、俺は蓮だ。日本人だ。あぁ酷い幻聴だ。


 「ギリアン! ギリア、……!! 良かった、瞼が少し、ほんの少しだけ動いたぞ。いいかよく聞けよ、作戦変更の通達が来た。時期ここはダメになる。ここから東側にある湖畔に――」


 作戦……? 何のことだか。あぁ、頭痛い。うるさい。黙れよ、もう死なせろよ……!

 頭が、かち割れてるから痛い、あぁ幻聴が響いて痛いよぉ……!!


 「どけアルベール、時間の無駄だ。ギリアンは俺が運ぶ」

 「わかった、少し冷静さを欠いていた。すまない。ひとまず、ギリアンは生きてる。良かった、本当に、良かった」


 何が「良かった」、だ。

 何も良くない。何も、何もかも、俺の全ては何もかも良くなんか……良くなんか……!!


 「はぁ……まだ安心は出来ないよ、敵の火砲の音が近い。二人の銃は僕が持つ。アルベール、指示を」

 「あぁ。現在時刻は1600《ヒトロクマルマル》、我々第2班はD地点東端の湖畔まで退却した陸軍歩兵第三師団アラン小隊と合流する。状況開始」




 何だ、何の話をしているんだ。あぁ気持ち悪い。死ぬ寸前になっても酔いが冷めないのか。全くつくづく俺は能天気な野郎だ。頭も痛いし幻聴も酷い。

 あぁ、寝よう。ずっと眠ろう。もう起きないでいよう。もう何もかも無かったことにしよう。

 なんだか身体が浮かんでるみたいな感覚もして来た。もうダメだぁ。

 

 あぁ、眠る。眠い。眠ろう。



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