天才に欠ける
AIの進化により、死の概念が大きく変化した。
少子高齢化社会、偏差値の低下も著しい昨今。
国としては苦肉であり、同時に成功すれば世界から注目される、それは画期的な政策だった。
――未成年に限り、死亡した場合はAIによって蘇生させることができる。
体にAIを埋め込むことで、主のいなくなった細胞に新たな司令塔をつくってやるのだ。
体の記憶がAIの記憶となり、動作や口癖、感情すらも本人のままに生命活動を維持できるようになる。
非人道的とも思える政策だったが、AIは着実に多くの命を蘇らせた。
そしてそれは、すぐ私の身近にやってきた。
従兄弟が病を患ったのは、高校入学が決まってわずか数日後だった。
入学式に出ることも叶わず入院生活が始まり、闘病二年で他界した。
そう、本来であれば他界したのだ。
けれど従兄弟は今、私の数歩前を歩いている。
学校の帰り道。久しぶりに、一緒に帰ろうと誘われて。
「もしかして、俺のこと避けてる?」
変わらない口調で、従兄弟らしい表情で振り返る。
「……避けてたら?」
割り切れない感情で問い返す。
確かにAIは従兄弟を従兄弟のままで蘇らせた。
闘病で痩せ細った体を元に戻し、記憶はそのままで家族や友人関係も問題なかった。
ただ、知能だけは国の意向でIQが高く設定されていた。
闘病で空いた二年間を、従兄弟はいとも簡単に取り戻した。
天才と称えられる従兄弟に、たったそれだけのことで私は距離を置くようになった。
「困る、かな」
目の前の従兄弟は本当に困ったように言う。
そんな顔をされては、私も困ってしまう。
従兄弟であり、従兄弟じゃない。
ずっと見てきたからこそ割り切れない私の気持ちは、ようやく無理矢理蓋をしたのに。
目の前の従兄弟を認めるには、私の中の想いは純粋で複雑すぎたから。
「どうして困るの?」
「苦しくなるんだ」
従兄弟は困り顔のまま。
でも、と続けた。
「避けられたら苦しいけど、今はそばにいるのも苦しい。なぜだろう?」
体の記憶はそのままAIの記憶となる。
何度も聞いた説明を思い出して、それでも割り切れない私は、ずるく問う。
「……どうしたら苦しくなくなるの?」
天才なはずの従兄弟の、欠けた感情に縋る。
「抱きしめてみてもいい?」
ふわりと纏う匂いも、はじめて包まれる体温も。
私が好きな従兄弟のはずなのに、やっぱり従兄弟とは簡単に認めたくなくて。
けれどずるい私は、この腕から抜け出す勇気もなくて。
こんなに、あなたが好きなのに。