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第6話 情焦死向(ジョウショウシコウ)

追記:タイトルってルビつけられないんですね……急いで修正しました。すみません。

追記:園安の元カノに一ノ瀬純を入れるのを忘れていたので追加しました。

 無限小の経過時間の間に起きた二人の攻撃は一体となり、不可能なエネルギー量の打撃となって、怪物を空に打ち上げた。

 当然、その衝撃と加速で怪物の体はぐちゃぐちゃに潰される。

 青い蔦も崩壊し、辛うじてやや原形を留めていた内臓だったものが破裂する。

 だが、結人はそうしたことを何一つ感じ取れない。一瞬の間に起きた事だった上、神経系の活動も衝撃で停止してしまっている。


 数秒後、意識が回復した彼がぼんやりと感じ取ったのは、自分が空を飛んでいる、ということだった。


 下の方が白くもやもやとして見えるのは、雲だろうか……そうだった、天国は雲の上にあるのだった。

 それは実際は霧であり、今まさに彼自身が雲の中を通り抜けているところだったのだが。


 白い地上が遠ざかっていく。あたりをすさまじい風が吹き上げる。

 あたかも自分が飛んでいるかのような、愉快な錯覚。

 何もかもから解放され、万能になったかのような気分。


 そう、ずっと彼が夢見ていた景色――


 ……だが、成層圏直前に達したころ、彼の体は速度を失い、落下に転じる。


 しかし彼は気づかない。


 あらゆるものが豪速で通り過ぎていく中、近づくのも、遠ざかるのも同じだった。

 終わりのない甘い夢の中、昇っていくのも、堕ちていくのも同じだった。

 その違いに、意味などない。

 だから彼は依然として、昇り続けているつもりでいた。

 

 高く、もっと高く――


 あともう少しで、あの雲に辿り着ける。


 雲の中の一点が、飛び込んでくる自分を迎え入れるかのように開けている。


 

 残りあと20メートルほどと言う時、その奥できらりと閃光が輝いた。


 結人は心の中で、その光に手を伸ばす――


 ああ、あの場所で待っているのだ、と。


 ――ツボミ……ネネ……カナタ……ショウコ……ハルカ……ナナコ……マリナ……サラサ……ジュン……ミオ…………。

 誰かはわからないが、誰でも変わりはしない。

 名前などない、ただ自分の生を満たしてくれる、完全な花嫁。その幻影――

 ――その胸の中に、飛び込んでいく。



「――イグニート・ブラスタアァァーーッッ!!!」


 そんな意味不明な叫び声も、その光の意味も知らぬまま。


 

 ――世界のすべてを、眩い光が包み込んだ。



 ――ああ、俺は、ようやく……。


 ……辿り着いたのだ、と。

 そんな、この上ない充足感に満たされながら、結人は灼熱の炎に焼かれていく。

 

 呪わしい触手は塵と化す。

 醜い四肢は吹き飛ばされる。

 汚れた悪魔の血も蒸発して、消えていく。



 ――――それ故、彼が見ていた幸せな夢も、覚める。



 その刹那、最後のわずか一瞬の間に、蒸発寸前の結人の脳は正常な機能を取り戻した――奇跡的に。


 その一瞬に、失われていたもの達が一気に帰ってくる。


 全身を焼く炎、ありとあらゆる部位と種類の痛み。


 ――え? 


 ……………………………………………………………あ。


 理性、状況の理解、恐怖、死への恐怖――


 ――まって――――いやだ。


 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――――



『――いやだああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!』


 その叫びはもう、声にならず、

 

 誰も聞く者もなく、

 

 最後に、愛する者との別れを惜しむこともなく、


 ただ、己が滅びることへの憤怒と絶望と怨嗟の中で――




 ――園安結人の物語は、業火に焼かれて幕を閉じた。

 















『――めでたし、めでたし。』


*********************************


 轟音と共に天高く、炎の柱がそびえたつ。

 それが、園安結人が火葬される合図だった。


「――まさに有終の美って奴だね。これにてめでたし、めでたしだ。」

 途ケ吉人志はそう言いながら、割れんばかりの拍手を送る。

「……いやぁ結人君、君は最後まで期待を裏切らなかったね。百年に一人の良い素材だった!僕が食べてあげられないのが残念なくらいだよっ、アハハハッ!」

「……………………。」


 私は彼の声を聴きながら、虚ろな目で眩い炎を見つめていた。

 炎は少しずつ、細く萎んで消えていく。

 それと共に下界の霧も、炎の発生源を中心に同心円状に晴れていく。

 ただ、相変わらず真っ黒な夜と、白々しいイルミネーションが残るだけ。


「――どうだい、叶多君?いい社会勉強になったかな?」


「…………………………………………。」


 途ケ吉は私が無反応なのを見て「ハッ」、と肩をすくめる。


「――じゃあね、叶多君。()()()()()。」


 途ケ吉はニヤリと笑いながら、慇懃無礼に礼をする。

 

 ――そして、パンッ、と弾けて消え去った。




 ――この後、どうなるんだろう。


 もう、何も考えられない。「これから」のことなんて、何も残っていない。

 

 ただの夜。ただの虚空。

 

 その虚空から、ぽつり、ぽつりと雨が降ってきた。


 あっという間に、土砂降りの大雨になる。


 私の顔にこびりついた吐瀉物も、多少は洗い流されていく。でも、どうでも良かった。


「――叶多ちゃん!お待たせっす!」


 屋上のドアを勢いよく開けて、陽明さんが飛び出してきた。


「いやぁっ!ヤバかったすねほんと!ああ、司もみんなも無事なんで、心配ご無用っす……!あ?え、ちょっと、叶多ちゃんゲロったんすかぁ!?何してんすか、えっ……?なんか、あったんすか……?」

 陽明さんがおろおろしているのを見て、私はムカついた。

「…………心配してる振りなんて、しなくていい。」

「……え?」

「…………あなたたちにとって、私たち人間なんて、ただの食べ物なんでしょ?」

「…………もしかして、途ケ吉から聞いたんすか。」

 陽明さんは気まずそうに言う。

「……私たちのこと助けたいなんて、ほんとは思ってないんでしょ!?救済とか正義とか、ただの物語で、ぜんぶ嘘なんでしょ!」

「あーいやそれはっ、誤解って言うかっ、あいつ、多分わざと嫌な言い方したんですよぉっ…………だから、あんまり真に受けてほしくないって言うか……。」

 陽明さんは下を向いて、首の後ろをポリポリと掻く。


「――まあ、それと。」

 ――そう言って突然、私を羽交い絞めにする。

「っ!!?えっ、何、待っ……!!?」

 首筋に、ナイフの刃が押し当てられた。


「――司くんにはこのこと、内緒にしておいて欲しいっす……『お口チャック』、す。いい子なら、できるっすよねぇ?」

「……………………!!」

「……おい、早く返事しろよ。この場で『事件の被害者(たす)一名』として消えてもらうこともできるんだぞ?」 

 陽明さんはキャラを崩して、ぞっとするような低い声でささやく。

「はいっ、わかりました。言わないです、絶対……ごめんなさいっ、ごめんなさい……!!」

 私は今更になって、自分がまだ死にたくないことに気づいた――特に、何の意味もなく。

「……はあ。そう言ってもらえて助かるっす……ごめんなさいっす、今のただの脅しっす。司くんのカノジョ殺すなんて、心が痛すぎるっすから!」

 ナイフが()()()()私の首から、だらだらと血が流れだす。

 刃が触れたどころではなかった――あと少し動かせば、刃先が頸動脈に達していただろう。

 私はハアハアと荒い息をつく。

「もし後で優子とかに聞けば、ちゃんと説明してもらえるっすよ。……でも、叶多ちゃんはぶっちゃけ、何にも気にしなくていいっす。余計なこと考えずに、おとなしくしてればいいっす。」

 陽明さんは笑っていた。……でも、目が笑っていない。


 私は何か言い返そうと口を開けて――不意に、口元に違和感を感じた。


 唇が右端から、ひとりでに閉じていく。

 見下ろしてみると、私の口に沿って金属製のジッパーがスライドしていくのが見えた。

「…………!?……っ~~~!!」

 私は声にならない悲鳴をあげながら、自分の口を抑える。


「――人間はただ、俺たちが用意した物語に従ってればいいんっす。」


 陽明さんはそう言って、侮るような笑みを浮かべた。

明日も2話投稿、そして遂に完結です。

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