第2話 眠り姫
5分後にあともう一本投稿します。
私は夢を見ていた。
真っ暗闇の中、上も下もわからない。自分の体の輪郭もわからない。
その闇は、温かくて、どろどろしていて、絡みついてくる。
とても気持ち良い、何か。
私の心は、それを切望して叫んでいた。
やがてそれは、私の視界の真ん中に寄り集まって、人の形になった――私が、大好きな人の姿に。
彼と私は、一緒に闇の中に溶け込んで、混じり合って、一つになっていく。
頭の中に虹がかかる。
快楽と言う感覚とか、幸福と言う感情とか、意味とかももうなんでもなかった。
自分の命の全部が、報われる感じがした。
切なくてしょうがない。
満たされながら、満たされるほどに、飢えていく感覚。
もっと、もっと欲しい。
もっと、もっともっともっともっともっともっと…………。
欲しい。欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しいホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイホシイ…………。
無限に繰り返される苛立たしい快楽の中、
――不意に、異質な何かが混ざってきた。
それは…………痛みだった。
これまでのむさぼる感覚とは違う、明確に快楽と区別できる、痛み。
意味のある、痛みだった。
私はそれを無視しようとした。
でも頭の片隅では、それのことがものすごく気になっていた。
その痛みは、どんどん主張が強くなってくる。
ガンガンと、頭の内側をたたきつける。電流のように。
前にもどこかで、似た感覚になったことがある気がした。
でも、思い出せない。
思い出したく、無い。
嫌だ、こんなの、嫌だ――
……でも、
なぜか、すごく――懐かしい。
そう思った瞬間から、私の中の闇は、ただの苦痛と化した。
何これ。嫌。気持ち悪い。まとわりついてくる。巻き付いて、しばりつけて、締め付けて、ぎゅうぎゅうと。入り込んでくる。まさぐってくる。私の中を、かき回してくる。ぐちゃぐちゃに、切り刻んでくる。
次第にそのイメージは、具体的な映像になって私の前に現れる。
あの赤いモノを飲んで、もう取り返しがつかなくなって。
逃げようとして、でも許されなくて。
狭い筒の中に閉じ込められて、
毎日毎日、
電気を流されて、
管から栄養を流し込まれて、
絞られて、吸い上げられて―
そして、もう絞れなくなったら、殺されて、
切り刻まれて―
痛い、ものすごく、痛い――
体も、心も。
バラバラの、断片的な記憶。違う人の、よく似たイメージ。全く同じ経緯と、末路。それらがあたかも私自身のことのように、一本の線のようにつながって流れ込んでくる。
――いやっ、やめて、やめてもう……嫌ぁっ!!!
そう叫んで、ようやく気づいた―今、叫んでいるのは「私」だ、って。
今、私はここにいる。
あの人と私は、違う。
私には、大事な「私」がいるんだ、って―
あの、切り刻まれた女の子たちとも、違う。
そうだ、この痛みは、他の誰かのとは違う――私自身の、痛みだ。
そう思った時、ひときわ痛みが激しくなった。
全てを引き裂くような痛み―でも、あっという間過ぎて、「痛い」と思う暇もなかった。
「私」が、引きはがされる。
闇が、晴れていく―