第8話 探偵ごっこ
追記:若干の修正を加えました。
11月、放課後の学校。
部活の練習にも行かず、司はそそくさと教室を出ようとする。
「……司さ、最近なんか忙しそうじゃん。何してんの?」
「…………ちょっと、調べてることがあって。」
晴翔の問いかけに対し、司は曖昧に答える。
今調べているのは、数日前に三河市で発見された、二体の「解体ミイラ」の件だった。これで三回目になる。
一ノ瀬純と、桐ケ谷更紗。いずれも十代女子で、一年前まで水瀬市の歓楽街で目撃情報があった。
……前回の杉山はるか以来、一年ぶりである。
司の兄の一人が発見し通報したのだが、報道は一切されていない。警察はこれまで同様、本件を隠蔽しようとしているようだ。
「…………またヒーローみてえなことしてんのかよ。」
「……まあ、そんな感じ。」
「はあ……それって、誰かの命にかかわることか?」
「……うん。」
「わかった。じゃあ、しょうがねえな……なんか手伝って欲しいことあったら、俺に言えよ。」
「え……あ、ありがとう。」
晴翔は昔から、司に対する理解は人一倍あった。
――こいつは、こういう風にしか生きられない奴なんだ。
そう言う星の下に生まれた、とでも言うか……圧倒的、主人公体質と言うか。
冒険や戦いや人助けから、逃げることはできない。
能力の適正でも、使命感でも、成り行きでも何でも―そう言う風に、仕向けられているかのように。
普通に生きていくことは、できない。
例え、どれだけ煙たがられても。
誰も、助けてくれなくても――
だったらせめて、親友の自分だけでも、その孤独に寄り添うべきなんじゃないか―晴翔はそう言う風に思っていた。
もっとも小学生の時は単に、冒険心を満たすために付き合っていたこともあったが。楽しい探偵ごっこか何かと、勘違いしていたのかもしれない。
だが、ある時凶器を持った逃亡犯に襲われて、晴翔は現実を思い知った。
そして、その状況に今までと全く同じ態度で難なく対処した司を見て、悟った――『ああ、こいつと俺は、違うんだ』、と。
それ以来、彼の「活動」からは距離を置いていた。
だが、最近の司は何か様子がおかしい――らしくもなく、迷っているようだった。
だからつい、気になってしまったのだ。
……実際、司は迷っていた。動揺していた。
9月の終わりに、花苦侘市内で立て続けに、二つの怪事件が起きた。
一つは30日、川上家が住むアパートの住人が、未知の方法で皆殺しにされた事件。
死亡推定日は、全員一週間以上前――ただし、川上葵だけが行方不明だった。
もう一つは31日、水族館で水槽が崩壊した事件。
現場に居合わせた園安結人と愛本叶多も、巻き込まれた。
どちらの事件も、見知った人間が被害者と聞いて、司は事件の詳細を気にかけずにはいられなくなった。
アパートの件については、警察が先に見つけてしまったため詳細はわからない。
――助けられなかった……。
深夜の犯行―司の危険信号は、覚醒状態で意識していなければ、機能しない。
水族館に関しては、現場に居合わせたという「姉」は「悪魔は殺した。あの娘は無事。」と言っていた。
……だが、その後一週間、園安結人は学校に来ていない。
その理由については何も説明してくれなかった。
9月以降、司の「兄」や「姉」達はずいぶんと忙しげにあちこちを出歩いていた。
だが、一体何が起きているのか、司には教えてくれない。
司はずっと、蚊帳の外だった。
やはり、自分は「まだ悪魔とは戦えない」と思われているのだろうか。
実際、まだ殺し合いに対する覚悟と言うものは、よくわからなかった。
――でも僕は、どのみち選ばないといけない。
殺すのか、殺さないのか――戦うのか、逃げるのか。
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司は今、晴翔と一緒に仏壇の前に座っていた。
杉山はるか――写真写りのせいか、あまり馴染みのある人には見えなかった。
突然訪問して怒られるかもしれないと思っていたが、そんなことは無かった。
……はるかの母は、自分に対して負い目すら感じていた。
自分が十分に愛情を注いであげられなかった代わりに、はるかの依存対象になってもらってしまった、と。
挙句、どうしてだかはわからないが、自分は一年間も娘の存在を忘れていた。その間に、彼女は殺されてしまったというのに。
あくまでそれは怪奇現象だったが、彼女はそのことにも強い罪悪感を感じていた。自分が無意識に、娘の存在をなかったことにしたがっていたのではないか、等と疑ってしまったらしい。
今は親戚と医者、カウンセラーの助けで、何とか悲しみに耐えて生きている。
夫と別れてからようやく、亡き子との関係についても反省する余裕ができたらしい。
……彼女は今、一階のリビングで泣いている。
司は快く歓迎された――『こっちは今さら合わせる顔もないのに、よく来てくれた』、と言って。
その気持ちに付け入るようで若干気が咎めるが、司はここに来た本来の目的のためにも、お願いをした―はるかの昔のアルバムを見せてもらいたい、と。
『いきなり私が行ってそんなお願いをしても、聞いてもらえないだろうからね。』
あの探偵――神谷永介にそう頼まれたのだ。
もちろん、突然会ったその男を、すぐに信用するわけにはいかない。
しかも、兄や姉の許可も得ていない。
どんな経緯でここまでたどり着いたのか――そう尋ねると、あっさりと答えてくれた。
だが、まだ協力するとは決めていない。
それにしても、驚いた――何だ、この人。
どうしてそんなに、何度も事件現場に居合わせるんだ?
そもそも雨宮県で、事件発生を目撃できる人間がいるなんて。
……後で、彼についても報告する必要ができた。
二人がアルバムをめくっていると、杉山母がお茶菓子を持ってきてくれた。
「ありがとうございます……。」
司は半ば上の空で答える。
県立霧岡第二高等学校、三年前の卒業アルバム。
彼女が失踪する前、最後に写った写真。
それまでの写真では、到底クラスになじめているようには見えない彼女が、笑顔を見せている
――カメラに向かってではなく、すぐ隣の「彼」に向かって。
――なんでここに、この人が。
「……あれ、なんかこの人、園安先輩に似てね?」
脇からのぞき込む晴翔が、そう言った。
「……あ~、確かに、ちょっと似てるかも。」
司は何でもないように受け流したが、内心は激しく動揺していた。
他人の空似、ではない。
…………そこに写っていたのは、今よりも少し若い雰囲気の、園安結人だった。
――今よりも、「若い」……?ちょっと待てよ。
今、あの人は何歳に見える?
身長の問題だけではない。改めて考えてみると、顔も……少なく見積もっても、二十歳は越えている。
――いや、でも……じゃあなんで。
杉山母が一階に下りて行った後、司は急いで写真をスマホで撮影する。後で神谷や兄姉と共有するためだ。
晴翔はその様子を困惑気味に眺める。
「……なあ、司。なんか、手掛かりになったのか?」
「あ……ううん。よくわかんないけど、一応……。」
……実際、何が何だかわからなかったが、強烈に嫌な予感がしていた。




