第8話 疑問
…………次の日の朝。
みんなが私を囲んで水族館の事故の話で盛り上がっているとき、司はその輪の外から、さりげなく私の話を聞いていた―何の感情も読み取れない顔で。
私は、先輩が襲われたことは、話さなかった。
司は……もしかして、知っていたんだろうか。
司はいつも通りの笑顔で、いつも通り友達と話して、授業を受けて……でも時々、一人でものすごく深刻そうな顔をしていた。
昔よく見た、あの、『使命』を戦っているときの、顔を。
私は、聞きたいことが色々あった。
先輩を襲ったあいつと、どんな関係なの?
司は……あなたたちは、いったい「何」なの?
……でも、聞けなかった。
そして一週間後。
文化祭当日。
司はピーターパンのコスプレをして、教室の前で意気揚々と女性客を集めている。
受付係の番が、私に回ってきた。
このゲームをクリアするためには3つのアイテム―『夢』と『勇気』と『友情』が必要。
誰が考案したんだっけ……確か、メルヘン好きの環奈ちゃんだったか。司のことが大好きな不思議ちゃんだった。
彼女が言う通り、夢の国の英雄は、まさに司そのもの。
どんな問題でも、機転を利かせて解決してくれる。
どんな夢でも、魔法の力で叶えてくれる。
どんな悪でも、恐れることなく倒してくれる…………躊躇なく、刃を振るって?
ふと、私は白装束の女のことを思い出してしまった。
……司は確かにおかしいけれど、でも、そんな人間ではないはずだ。
……いや、本当に、『人間』なのだろうか?
私は彼の背を見つめながら考える。
背丈は中学生の時から変わっていない。
顔だちも、ほとんど変わっていない。美しい彫刻のような造形。
例えば、そう――――――――『天使』、とか。
もう今となっては、ありえなくもない気がする。
「……?どうしたの、叶多?」
司が私の顔を覗き込む―私は思わず息をのんだ。
――司のことが、恐い……?
そんなこと、無いはず……。
「…………やっぱり、怖がってる?」
「え……?」
「水族館で……何か、あったでしょ。……何かって言うか。ただの事故じゃ、無かったんじゃない?」
司は迷うように言う。
「……なんで、そう思うの?」
「それは……なんか、叶多が変だから。」
――嘘だ。
なぜかそう確信できた。
きっと、司は嘘をつくのが下手なのだ。
今の言葉の間の空き方で、明らかに嘘だとわかってしまった。
――やっぱり、なんか知ってるんだ。
「……だって、溺れそうになったし……それだけでけっこう怖かったよ。」
「そっか……ごめん、なんでもない。」
司は慌てたように言った。
「なんで、そんなこと聞くの?……司に、何か関係あること?」
私は思い切って聞いた。
「――別に。」
司は、私と目を合わせたままそう言った。
……たった数十秒前と同じ人間とは思えないほど、自然な嘘だった。
その無感情な目を見て、背筋に寒気が走る。
――違う。
今目の前にいるこの人は、私がよく知っている天愛司とは、明らかに違う。
……いったい何が、彼を変えてしまったのだろうか。
あるいは、何も変わってなどいなくて――――初めから、化け物だったのだろうか。
本日はあと2話投稿します。その方が切りが良いので。
なお、少し短めですが第二章はここで終わりとなります。




