<幕間>~神谷永介の捜査日記③:後編~
昨日は投稿しそびれたので、本日二日分(4話)投稿します。
すみません。
追記:
・ルビなどに少し修正を加えました。
・設定上のミスを修正しました。
追記:設定上の修正を加えました。
深夜のファミレスで、中年の男が二人。
コーヒーをすすりながら、なにやらきな臭い話をしている。
「……あながち否定できない。」
「……何?」
神谷は口に持っていきかけたカップを下ろす。
「ありえなくもないってことだ……妖怪変化。馬鹿げてると言われそうで、黙っていた
が……。」
冴島は座面に寄り掛かり、あおむけになる。
「ここ四年間くらいの数々の怪事件……どれもこれも、訳が分からなすぎるんだ。普通の事件じ
ゃない何かだ、としか言いようがない。……と言うか、具体的に『○○事件』として定義できないというか、死体は出てくるのに何が起きたのかっていう推測すら受け付けないものも多い。……どうもなんだか、得体のしれない大きな何かと戦ってるような気がする、というか。」
「…………それは、まあ、俺にもわかる。だが、一つ一つの事件のつながりはわからない。」
「ああ、そうだ……だが一つだけ明らかなことがある――これは、暴風雨戦争の
後からだってことだ。いっそ大胆に、『一連の』怪事件と言ってもいい。証拠はないが、俺の実感として、だ。ウチの連中も、口には出さないがみんなわかってる。」
「………………。」
神谷は沈黙した。
なんと反応を返せばいいか、わからない。
それだけ聞いても、話しはどこにもつながる気がしない。あまりに実りが無かった。
「……まあ、とにかく具体的な話をしよう。俺の方の情報がまだだったからな。」
冴島は身を起こして、神谷を見据える。
そしてまず、田辺芳次について話し始めた。
彼はおそらく、足を洗ってなどいなかった。
むしろ新しい所属先を見つけ、そこで今までと同様に、否、おそらくはるかに高い地
位について、麻薬の販売を続けていたようだ。
だがそれは全て、顔見知りから聞いた本人の羽振りの良さや言動からの推測だ。
実際には、まったく物証が上がって来ない。
その上誰の下で働いているのか、どこから運びどこに売っているのか、そもそも何を
売っているのか、そういうことすらもわからない――
「で、となるとあの工場ではおそらく、ブツの加工をしていたと考えるのが自然だ。――ただど
うも、単に粉に加工するだけにしては設備が大掛かりでな。」
もっとも、今回の火災ではそれらの設備も含めすべて灰燼に帰してしまった。金属部
品の断片が焼け残りはしたが、もはや何が作られていたのか直接確かめることはでき
ない。
今回に限っては、火災と言うよりも爆発のような現象だったらしい。
「……隠蔽工作、か?」
「さあな。」
それから、近所の目撃証言によれば、従業員は二・三名いたらしいがいずれも身元不
明である。
軽トラックで商品や材料を輸送していたようだが、ナンバープレートはついていなか
ったらしい。
神谷たちは、『そんなに怪しいなら早く通報しろよ』と、住人達に対する文句を言い合った。
しかし何と言うかその工場は、「影が薄かった」らしい。火災(爆発)が起きるまで、全く注目されてこなかった。
「……まあ、工場に関しては、そんな感じだ。」
「……………………なるほど。」
神谷はコーヒーをすすりながら気のない返事をする。
「『役に立つ情報がほとんどない』、って思っただろ。俺も同じ感想だ。……クソッ、言っとく
がな、俺たちにとっちゃこれが当たり前なんだよ。毎回同じ無力感を抱かされてるんだ。」
「わかってるよ。……まあ、それでも、話が聞けて良かった。有益な情報もあったしな……お互
い、できることをやろう。」
神谷は素の口調で労うように言い、コーヒーを飲み干そうとする。もうほとんど冷めきっていた。
「おいちょっと待て。勝手に話を終わらすな。……いいか、心して聞け。ここから先の会話は『存在しない』ってやつだ……わかるな?」
冴島が声を潜めて言うと、神谷もかしこまって向き直る。
「正直、さっきのお前の話が無かったら、言わないでおこうと思っていたんだが……実は、田辺
の自宅が特定できてる。で、そこで『顧客リスト』らしきものを押収したんだ。」
「本件のか?」
「十中八九そうだろう。全体のほんの一部に過ぎないようだが。一番古いのは四年前。それ以前
はない。……そこまではいいんだが。」
冴島は一度言葉を区切る。
「リストのそれ以外の部分や、証拠になりそうなものはまったく見つからなかった。」
「…………それは。」
「ああ。そんな大昔の記録を処分しない不用心な奴が、それ以外の資料はきれいさっぱり消し去
ってる。まるでこうなるのがわかってたみたいに、な。」
「……第三者の、警察に対する威圧、とかか?」
――であれば、わざわざ残された顧客リストには、何かしらのメッセージが含まれているはずだ。
「ああ、おそらくな。……で、唯一の手掛かりである、その顧客リストにあった人物だが。」
冴島はため息をつく。
「全員雨宮県内に在住。それ以外の共通点は未明。そしてそのうちだれにも話を聞くことはかな
わない。全員、次の三つのうちどれかだった――『身元不明』か、『行方不明』か――――
『死亡』。」
「………あぁぁ……………………。」
神谷は顔を抑えた。なんとなく、予想はついていたが。
「……『この件からは手を引け』的なことか。」
「ああ。俺の班はそいつの思惑通り、もうほとんど萎えきってる。」
「……死亡、っていうのは、他殺か?」
「わからん。死に方はバラバラ。自殺も多い。……ただ、何人かは共通点もある。
覚えてるだろう。二年前、『血抜き死体』になって発見された水瀬市の大学生たちだ。」
「ああ、県警が隠蔽したやつ。報道発表も一切しなかったな。」
「血抜き死体」の事件――と言うより、「バラバラに解体されたミイラ」の事件と言った方が良いか。
雨宮県でこれまで見つかった変死体のうち、もっともひどいパターンの一つ。しかも、連続して何度も起きている……その割に、都市伝説化することは無かった。
なお、神谷が接触したある死体の第一発見者は、『警察から口止め料を受け取っていた』と言う。
「……そうするしかないって言うのが上の判断だったんだ。事実が知れたら県民がパニックにな
る。わかってくれ。」
「…………。」
「で、その高校生のワル共のうち一人だけは、大学進学前、春休みに一足早く行方不明になって
る。今も見つかっていない。」
少年の犯罪仲間から一人だけが消えて、数年後に他のメンツも後を追うように失踪……事件の匂いしかしない。
「最新のやつだと、一年前の霧岡市の女子高生か?」
「…………ちょっと待て。それをなんで知ってる。」
「私は公園の住人とも顔が知れてるんだ。」
「第一発見者か……口止めを突破したってことは、お前、よほど信頼されてるんだな。……まさ
か、いつもそのあたりをうろついてるのか。」
「たまにお茶会に参加させていただいているだけさ。」
「はあ。お前って奴は……まあいい。………で、事件の話だが……捜査の結果、訳の分からんことが発覚した――どの事件でも、『被害者たちは一年も前から行方不明だった』らしい。」
「…………『だったらしい』?」
神谷は一瞬、意味が理解できなかった。
「そう、警察は行方不明者が出てることを把握してなかった。だから、この事件についての報道
が伏せられた理由はメンツの問題でもあるんだが……。」
「……嘘だろおい。それはさすがにずさん過ぎると――」
「待て、最後まで聞け!……警察だけじゃない。被害者の友人も、親族も、大学や高校も、行政
ですらも――誰も気づかなかったんだ。」
「…………どういう、意味だ?」
「そのままの意味だ。人間が一年間も消えていたのに、気づかなかった……その人達の存在をす
っかり忘れてたってことだ。」
「……馬鹿な。」
――そこが、怪奇現象という訳か。
冴島はその後、神谷に大学生たちについての情報も伝えておいた。
五年前、つまり高校2年生の時、「売り子」をやった疑いがあったらしい。だが、一
斉検挙の際は捕まらなかったと言う……これもなぜかはわからない。証拠が挙がらなかったのだろうか。
「……以上だ。後の顧客たちについての情報提供はできん。詳しいこともまだわかっていないの
に、お前が親族その他に突撃したら俺の責任になる。……それに、一貫性が無さすぎてあまり
役にも立ちそうにないしな。」
「……ああ、いや、十分だよ。ありがとう。」
神谷は放心気味の声で言った。
冴島はそんな友人の顔を見つめる。
「…………なあ、神谷。お前、この件はもう、やめておけよ。」
神谷は、答えない。
「正直言って……本当にまずいぞ。もしこれらが本当にひとつながりの
事件なら、黒幕は勝てる相手じゃない。」
「……………………。」
「どうせ俺たちの捜査もいつか打ち切りになる……予定調和だ。警部の頭の中にも、『全て真相は闇の中』っていう幕引きの台詞がもう書き込まれてるだろうからな。」
「……………………俺は、できる限りのことをする。それだけだ。」
神谷は決意のこもった表情で言った。
「……意地か、県警への反骨心か?……無駄だとは言わない。お前は俺たちと違
って自由だし、人一倍鼻も効く。だから、俺たちよりも真相に近づくチャンスは大きいとは思
う……だが、」
「『だからこそ危ない』、か。ご忠告、痛み入るよ……だが、もし私が本件に関連して、誰かを
逮捕するチャンスを作ったとしたら?その時も君は、それを見なかったことにするのかい?」
「それは――――しない。ていうか……できないだろうな。それだけは。」
冴島は迷いながらも言う。
「――――俺は、刑事だ。」
神谷はそれを聞いて、にやりと笑う。
「そう、それでこそ私の相棒だよ。」
「……お前と組んだ覚えはないぞ。」
「つれないねぇ。」
冴島は会計を呼んだ。
神谷は冷え切ったコーヒーを飲み干す。
二人とも、思っていることは同じ。
――そうは言っても、どうしたものか、と。
この後10分後にもう一本投稿します。
19:00台に今日の分も投稿します。




