第2話 水族館(1):「楽しい」の定義
本日2本目です。
9月の最後の日。
二回目のデート――行き先は花供侘市内の水族館。いたってベタだ。
外は大雨だったから、水族館以外の予定は仕方なくキャンセルした。
水族館自体は、別に対して好きでも嫌いでもない。
生き物は可愛いの以外あんまり好きじゃないし、海の生き物は見た目が気持ち悪いの(甲殻類とか)多いし。
でも、魚が群れになって泳いでるのはきれいだから好き。魚自体が好きっていうより、幻想的な景色の一部として好きと言うか。
小さい頃は結構、『お魚さん好き!』って言っていた気がするけど、多分ディズニーとかのアニメに出てくる擬人化されたやつと混同してたんだと思う。
物心ついてくると、現実の魚は意外と気持ち悪いことに気づいた。
……そういえば小学校高学年くらいになってから、ディズニーにもあまり行っていない。二回くらい友達と行ったけど、そもそも私もみんなも、ディズニーファンって訳じゃない。
小さい頃は毎年行っていたのだけれど、親が両方とも仕事で忙しくなってからあまり行けなくなった。
去年は久しぶりに、部活のメンバーと一緒にランドに行った。
――そうだ、あの時は匂色先輩が一番はしゃいでたっけ。めちゃくちゃ意外だった。
……匂色、先輩。
…………はあ。
――そうだ、結人先輩とディズニー行きたいな。
私は思考をポジティブな方向に転換する。
――ランドとシー、どっちがいいかな?
シーの方が大人向けってよく言われてるけど、どうなんだろう。
先輩にどう見てもらえた方が良いかによる。『クールなのが好き』みたいなことを言っていた気がするけど、実は子供っぽいって言う一面があった方が魅力的かもしれない……匂色先輩みたいに?
――ああ、どうしてそういう方向に行くの!
と、関係ないことを考えてた私は、目の前の水槽に全く集中していなかった。
エイがガラスに不細工な顔を押し付けてきている。
「あんまり面白くない?違うとこ行く?」
先輩が気を使って声をかけてくれて、われに返った。
「あ、いや、そう言う訳じゃなくて。ちょっとぼんやりしてて、ごめんなさい……。」
「どっか行きたいとこある?」
「え、えっとじゃあ……。」
あ、そうだ。せっかくだからここで女子っぽさを見せてみるか――
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「わあ~、かわいい!」
ペンギンは素直に可愛い。でも、本当はそんなに声を上げるほど感動してない。
近くにいる皇帝ペンギン……はあんまりかわいくないけれど。
私は大げさなリアクションを取ってから、さりげなく先輩の様子をうかがう。
「やっぱかわいいの好きなの?」
「あ~、はい。けっこう。人並みには?」
私は顔に笑いを張り付けながら言う。
「あー、そっかやっぱ。女子だな……俺さ、ぶっちゃけるとあんま、かわいいの好きじゃないんだよね。」
「え?」
「動物が可愛いとかあんまよくわかんないし。」
先輩が笑いもせずに言う。
「あ……つまんない、ですか?ごめんなさい、やっぱり私に合わせて――」
「いや、ていうかやっぱり?人間の女の子の方が可愛いから?」
先輩は、私の顔を見ながら言う。
「動物自体は好きじゃないけど、それ見て喜んでる叶多の方が可愛いから。それが楽しいから…………って叶多、顔真っ赤じゃん!」
「赤くなってないです!」
「なってるって。ガラスに映ってるじゃん。」
「見えないです。赤くないと思います。」
「えーほらもっとよく見て、赤いじゃん、ねえ。」
そう言って先輩は顔を寄せてくる。
――ああ、ちゃんと距離が縮まってる……。
って思いかけたのに、先輩は私から離れてしまった。
――やっぱり、距離感気にしてるのかな。
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深海生物のコーナーは苦手だから、目を伏せて足早に通り過ぎようとする。
そうしたら、先輩が気を使って目を覆ってくれた。
私は心の中でガッツポーズをとる。大げさに恐がった甲斐があった。
「叶多って怖がりなの?」
「違いますよ……え、だってあのカニのはさみとか、普通に危なくないですか?」
「水槽の中じゃん。なんもできねえよ。それに、襲ってきてもただの雑魚だろ。大丈夫、もし襲ってきたら俺が殺すから。叶多に手出しなんてさせねえよ。」
「……………殺す……。」
「……なんだよ、俺じゃ頼りない?」
「そんなことないです、全然……。」
やっぱり先輩は戦う王子様タイプみたいだった。
他の水槽も、あんまり真面目に立ち止まってみたりしなかった。
今日の私たちのお目当ては、ほとんどイルカショーだけだった。
でも実際私は、イルカも(まあかわいい方ではあるけど)そんなに好きじゃない。泳ぐ勢いとか歯とか怖いし。でも遠くで見ている分にはいいし、彼女が彼氏に連れて行ってもらってキャーキャー盛り上がるものの定番だ。
私は水しぶきを被って黄色い悲鳴を上げる。先輩は、こういう風に「狙ってる」反応は結構好きらしい。多分、狙ってるのは、バレているけれど。
でも、私が演技していなくても、先輩は終始私の方を見て笑っていた。
きっと魚なんて全然見てなかった――ただ、隣に並びたいだけ。
私と同じだった。
その様子を見るとなんだか……あんまり深く考えなくていいのかも、って気もしてきた。
別に自分が一番楽しいと思うことをしてる訳でもないけど、演出とかも必要ないし、ただ単に、一緒に時間を過ごしてるから楽しい、って感じられるのが、大事なのかなって……。
水族館のお話はあと2,3話続きます。




