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第11話 気にしてなんかいない

本日2話目になります。

 ある日の放課後。

 私は先輩と一緒に帰る約束があったから、文化祭の準備も早々に切り上げた。


「……お前、何にやにやしてんの。」

「え?あ」


話しかけてきたのは晴翔だった。無駄に目ざとい奴だ。


「結人先輩のこと考えてただろ。」

「うるさい。」

「カハハッ!お熱いね~!」


 私は無視した。他の委員の子達もちょっと笑っている……いつの間にか、クラス中に知られてしまった。こういうのはムカつくけど、でも幸い、女子の恨みを買うことは無かったらしい。クラス内には、結人先輩のことが好きな人はいなかった。


「いやーまさか叶多がね~、あの園安先輩とね~。」

「いや~大変だな!気をつけろよ、寝取られたりして!アハハッ!」

「えぇちょっとぉ~!ひどいって!……え、さすがにないでしょだってぇ。付き合い始めたばっかなんでしょ~?」


 三人は勝手に盛り上がりかけていたけど、私が全く反応していないのを見て口をつぐんだ。


「あ、ごめん……別に本気で言ったんじゃなくて。」


 麗奈が謝ってくれた。別に私は怒ってはいなかった。

 でも、男子二人はまだ調子に乗り続けた。


「いやぁ、ありえなくもないぜ?だって園安先輩って言ったらねぇ?」

「ねえ?」


晴翔は含みのある言い方をしながら、宗太と顔を見合わせる。


「……何が言いたいの?」


 私が歩み寄ると、晴翔は少し顔を引いた。


「急に食い気味だなおい……。いや、つい昨日聞いた話で、断言できないんだけどさ……聞きたい?」

「なに……もったいぶんないで。」

「ちょっと、顔近ぇ……。」

「あ、ごめん。」


 私は一歩引いた。

 ————いけない。マジになるな、私。


「三年生の、匂色先輩っているじゃん。」

「うん。部活同じだよ。」

「あ、マジッ!?ギャハハッ、それ因縁じゃん……あの人さ、結人先輩の元カノなんだって。」

「…………まじで?」

「わからん。」


 ……単純に、衝撃。

 別に、嫌じゃない、嫌じゃないけど……なんだか怖くなった。


 ————匂色先輩が?私が、匂色先輩の……後、になんて、そんな……なんか罪悪感が、やばい。ていうか私、匂色先輩にどんな顔して会えばいいんだこれ。


 今の私たちの交際は別に秘密じゃないから、どのみちすぐ伝わるはずだった。


 ————あれ?


私はふと違和感を感じた。


 ————そう言えば確か、結人先輩って……『付き合うのは私が初めて』って、言ってなかったっけ?


「……それ、誰が言ってたの?」

「それは……言えない。その筋からってやつだ。」

「——言って。いいから。」


 晴翔以外の二人が「あ、まずい」みたいな顔をする。私は自分でも、口調が硬くなっていたことに気づいた。


「————ほら、さっさと吐け!」


私は冗談っぽく言いなおしながら、晴翔の口を両手で引き裂く————間違えた。引き裂く勢いで両側に引っ張る。


「えいぃぃうあっ!痛ぇっ……! ……お前、今のは友達同士のおふざけとかそういう範疇を超え」

「ああごめん、いや……乙女は恋のことになると盲目になっちゃうから。」


 私はいつも真顔でしゃべってるから、むしろこういうときも、真顔で冗談を言っていたんだ、と思わせやすい。


「何が乙女だこの暴力女が!」


 晴翔は害獣を見るような視線を送ってくる。


「で、誰から聞いたの?」

「……えーと、あ~…………ごめん、ほんとに言えない。」

「え?」


 私はそこまでマジな調子で拒否されるとは思っていなかった。でも、晴翔は本気で迷った上で、言ってはいけないと思ったらしい。

 そうは言っても、こっちにとってもこれは一大事なのだ。


「えっと、じゃあ……二人が別れたのっていつ?」

「先月とか。」

「先月!?」


 ————え、待って。それじゃあ別れた直後に私が告られたってことじゃん。


「ど、どっちがふったの……?」

「知らね。」

「…………。」


 私は混乱していた。

 別に、先輩に交際歴があったこと自体が嫌なんじゃない。でも……


 ————なんで、なんで隠すの?なんで「初めて」なんて嘘つくの?


「まあ、だって園安先輩って言ったら……××××だもんな!」


宗太が大声で言う。

予期していなかった卑猥な言葉に、私は思わずびくっとなる。自動的に脳内で規制音がかかった。


 ————やめてよ。


 彼らにとっては、ごく普通の言葉遣い。でも、それで傷つくようなしょうもない人間も、たまにいる。でも、配慮しろだなんて言う権利は、私にはない。

 この人たちはごく自然に、そう言う文化に適応している強者だ。弱者はその間で、人知れず息をひそめていればいい——その文化に、文句を挟む権利なんてない。


「おい、もっとオブラートに包めよ……!」

「どうやってだよ。無理だろ。」

「『プレイボーイ』、とかじゃない?上品でしょ。」


 麗奈ちゃんはさっきまで私が怒ってないか気にしていたのに、もうそのことを忘れている。

この子はどうもすぐ、思ったことを口に出してしまうらしい。


「上品もクソもねえな!」


再び、三人の悪意無き笑い声が私を包む。


「えーでも、今は叶多ちゃん一筋だよねーきっと。だって自分から告ったんでしょ?」

「いやぁ、セフレくらいいるんじゃね? あ、そうだなんかこれも先輩から聞いたんだけどさ、園安先輩って時々放課後、こっそり図書室行ってるんだって——」

「図書室って……もう閉鎖したんじゃなかったんだっけ。……え?そこでその、会ってるってこと?」

「おいやめろ。もうキツイって。」


 私は耳をふさぎたくなった。


 宗太は楽しそうに、本当に楽しそうに笑っている。そして彼の視線は、私にも笑いを要求している。私は無理やり微笑を作りながら、「やめてって。」なんて言ってみる。でも、内心はそれどころじゃすまなかった。


 ————……違う。先輩は、そんなんじゃ、ない……。


 結人先輩は誠実なのだ。一途なのだ。純潔なのだ——私の、王子様なのだ。

 

 ――お前、マジで殺すぞ。

 

 私は自分が怒っていることに気づいて、慌てて自制した。そして、冷静になって自分に言い聞かせる。


 ————だって、ねえ……結人先輩だよ?


 おかしいことなんかじゃない。

 この学校では恋愛に関しては、ただでさえ裏で女子の苛烈な戦争が行われているのだから。

三年間あんな人が放っておかれたわけがない。付き合ったことないなんて、嘘に決まってる。


「————ていうか俺の先輩が言ってたんだけどさ、去年川澱でさ、一週間に二回?園安先輩見かけたって言うんだけど、二回とも違う女だったって!」

「え~、やばぁ。」

「……あー、まあともかく。頑張れよ、叶多。」


 晴翔が今さら、少し気遣うように言った。


「そ、そういうことだから。いつまでも不愛想だと飽きられちゃうよぉ————早めにヤっとけ。」


……そして最後に、宗太が余計な言葉で締めくくった。


「おいお前!」

「ねえちょっとぉ、セクハラひどい!」

「それさすがにさ!」

「アハハッ、ごめんって。ごめん。叶多マジで、ごめ、アハッ……。」

「…………別に、良いよ。」


 私は唇をかみしめる。


 ――動揺を、見せるな。


 これは、そう言うルールなんだ。

 ルールは強者が作る。そう言うものだ。


 弱肉強食。どこの世界でも同じ——恋愛も同じ。

 



 負けたくなかったら————強くなるしかない。


叶多ちゃん、心の中はともかく、普段の口数は少ない方です。でもなんとなく目立ってしまうというか。クラスの中だと独特な立ち位置なんでしょうね。

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