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小さなおとぎ話

初投稿です。一年くらい前に書いたものを大幅に書き直して投稿していきます。まだ話の構成が苦手なので、頑張ります……!

※本日はあと2本投稿します。最初なので、話の「起」まではなんとなくつかめるようにしたくて。


追記:この部分をプロローグとしたので、第一章の話数を全部ずらしました。

 天愛司は、天使だ。


 ……本人曰く。幼稚園生の時に言ったことだ。文字通りの「天使」。

 比喩としてもその通りで、顔も天使みたいだった。でも実際のところ、それ以外は何の変哲もない普通の男の子。


 だけどその正体は、「人間に生まれ変わった天使」、らしい。……つまり、見た目も普通じゃないけれど、中身もバリバリ不思議ちゃんだったってこと。                                    

 小さい頃の私は、まあ本人がそういうからそうなんだろうって素朴に信じていた。

 頭の中では、司との運命的でドラマチックな出会いの話ができあがっていた。あのころ何度も脳内再生してたから、今でもちゃんと思い出せる。他人には絶対に言えない。恥ずかしすぎる、ヤバイやつ。しかも自分でも不思議なことに、十歳くらいの頃までは本当に起きたことだと思い込んでいた――


*************************************


 その日は私にとって、人生はじめてのおつかいだった。

 新しい冒険の世界が開ける瞬間。

 他の人がどうだったかは知らないけれど、小さい頃の私は結構夢見がちな性格だった。すこし物事を幻想的に捉えすぎる、そういうタイプ……だから、こんな妄想もしてしまうのだ。

 一旦なにかに夢中になると、周りが見えなくなることがよくあった。今でもときどきそうかも知れないけど。


 だからその時、目の前の信号が青になったからって、何も考えず走り出してしまったのだった。


 横断歩道の向こう岸に、男の子がいるのが見えた。私と同じくらいの背丈の男の子。


 その子は私の方を見て驚いた顔をする。何か言おうとしてたかもしれない。


 耳をつんざくクラクションとブレーキ音。


 立ち止まって振り向くと、すぐ目の前には大型トラックが迫ってる!大ピンチ!


 ……で、そこで助けてくれたヒーローが司くん、と言う訳だ。


「――止まって!」

      

 死にそうな状況で、時間が遅くなる、って話を聞いたことがある。走馬灯という奴だろうか。

 そのときは、ちょうどそんな感覚だったと思う。この感覚はとてもリアルに覚えている……多分、ここまでは現実だった。


 そしてここから先が、妄想の部分。

 私の空想の中では、トラックが止まったと言うより、時間が本当に止まっていた。

 トラックの車輪は回っている途中の状態で。その車体だけじゃなくて他の車も止まっていた。歩道を歩いていた人たちも、みんな動きが止まっている。人形みたいに。

 目の前に立つその子だけは、自由に動いていた。


 私を庇うように、肩をつかんで覆いかぶさっていた。私は命の危険とは違う理由で、ドキドキした。

 このドキドキも多分、現実だったと思う。


「────だいじょうぶ!?けがしてない!?」


 そう言って私と目を合わせた、彼の顔は────────天使だった。


 幼い私はゆっくりうなずく。

 それを見た少年は、とつぜん私の手を取る。その手は、私の心まで包み込むくらいあったかかった。

 急に頭がぼーっとしてきて、その子の顔を直視できなくなってしまった。

 我ながら、幼児のくせに色気づいていた。手を握られただけでそんなに動揺するなんて。

 その子の手は、お父さんやお母さんのものとは明らかになにかが違う。そんな感じがした。素敵すぎて、まるで、私なんかが触っちゃいけないような、そんな感じが。


「けがしてないね。よかったぁ。」


 そのまま私は、彼に手を引かれて横断歩道を渡った。


 不意に、まだ手を握られていることに気づいて、恥ずかしいから離してくれないかなぁ、って思いながら少年の方を見る。

 男の子は、上品に(と言うと小さい子には似合わないけど)首をかしげて、私の目をのぞいてほほ笑むかけた。


「こんどからはきをつけてね!」


 そして、ぱっとあっけなく手を離される。

 何を言えばいいかわからなかったけど、立ち去ろうとする背中に向けて、慌てて言葉を絞り出す。


「ま、まって!」


 彼は立ち止まり、不思議そうにこっちを振り返る。


「……わたしのこと、たすけてくれたの?」


 彼は、それがどうかしたの、と言う顔でうなずいた。


「……なまえ、なんていうの?」

「ぼくは────」


 これが、私と司の出会いの物語。

 三歳の私、愛本叶多えもとかなたは、同い年の少年、天愛司あまのめつかさに命を救われた――そんな筋書きの。


*******************************************


 天愛司との二度目の邂逅は、意外にも早く訪れた。

 近所の公園で偶然。

 それで、住んでいる場所がすごく近いってわかってから、私たちはよく一緒に遊ぶようになった。


 すぐに私は、彼のことが大好きになった。

 優しいし、女の子よりかわいいし、気が利くし、声を聴いていると落ち着くし、目が綺麗だし。つぶらでうるんでいて、優しげで。見ていると吸い込まれてしまう気がする。一度目を合わせると、もう逸らせない。

 

 仲良し。親友。……それだけじゃ足りなくて、結婚したい、とまで思った。


 そしてある日彼は、私に自分の秘密を打ち明ける。


 ――僕はね、天使なんだ。


 彼はもともと天使として生まれて、雲の上の天界で暮らしていた。でもある時、天界から人間たちに愛を与える使命が与えられた。だから司自身が人間の姿になって、地上に降りてきたのだ、と言う。


 私はそれを聞いてとても感激した。


──天使!本当にいたんだ!

──そっか、だからこの子はこんなに綺麗なんだ!


 二人そろってメルヘンな頭だった。気が合うのも当然だったかもしれない。

 そのころの私達は本気で、「他の人に知られたら大変だから!」とか言って、「二人だけの秘密」にしていた。

 そのときの私にとっては、それが本当かどうかより、『ふたりだけのひみつ』、ということ自体が大切だったのだろう。

 私と司しか知らない、世界でたった二人だけの、秘密。

 しかも司はその秘密の力で、私の命を助けてくれたのだから。私にとっては、白馬に乗って駆けつけてくれた王子様も同然。


 司はやがて、私と同じ幼稚園に転入してきた。

 運命を感じた……近所なので当然だったのだけど。

 

 司はすぐにみんなに好かれた。彼を嫌いになる子なんていなかったと思う。

 司は特に、担任の先生と仲が良かった。よく二人だけでずっとおしゃべりしている時があった。多分男の人だったと思うけれど、私はあまり面白くなかった。


 でも二人だけでいるときの関係性は、やはり少し特別だった。司はいつも、私の空想ごっこに飽きずに付き合ってくれて、私の思い通りの役を演じてくれた。たいていは、昔話の王子様役だった。時々妖精とか魔法使いだったりもしたけれど。


 あと、おままごとで恋人ごっこもしていた。普通、幼馴染の男子とそう言うことはしないものだろうか。

 友達に聞いたことはないからわからない。でも、相手が司みたいな子だったら、誰でもそうするんじゃないかと思う。

 私たちはその空想の中で、最後には結婚までしてしまった。

 遊び半分で(実は半分本気で)プロポーズしたんだけど。司は冗談が分からない子だったから、もしかするとあの答えも、真剣に考えて答えてくれたのかも……なんて。

 

 今更、どうでもいい。


「────ありがとう!ぼくもかなたのこと、だいすきだよ!いっしょう、そばにいてあげるね!」


 今思い返しても、司が私に対して抱いていた好意がどういうものだったのか────よくわからなくなる。


 司はいつでも、私にとって都合のいい役割になってくれた。

 親友で、恋人で、お兄ちゃんで、弟で、お父さんで、お婿さんで、王子様で。誰よりも簡単に愛せる相手。

 それは本当だったら、妄想の中にしかいてはいけない存在だったのかもしれない……なんて。


 小さい子供は、他人を何でも自分の思い通りにしようとする。

 

 そして、それがうまく行かないと怒って泣く。

 

 でもいつかは妥協を覚えて、親とか友達とかの、思い通りにいかない部分と折り合いをつけていく。そうやって成長してく。


 かつて子供だった大人なら、みんな通った道だ。


 私だってそうだった……でも司に関しては例外。そういう経験は一度もなかった。一度も。


 夢の中で私は、司の不思議な力で一緒に空を飛びさえした。


 どこまでも、遠く、遠く――二人きりで。

 

 司には、どんなあり得ない期待だって抱いても許される。


 私だけに夢の世界への切符を渡してくれる、素敵な男の子。


 天使だから。特別なんだから。


 そんな風に思っていた。


 私の、王子様────────私だけの天使、なんだって。思い込んでいた。



 でも当然、そんな幸せな幻想は……いつまでも続くものじゃない。

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