料理
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有無を言わさず腕を引っ張られ、前傾で転けそうになりながら小さい背中についていく。
こんなに小さい体でよく自宅の扉を開けられたなと感心していると、自宅の家のドアの前につき必死に届かないドアノブを掴もうと俺の腕を引っ張っていない方の手を必死に伸ばし始めた。
小さな爪先を立てて背伸びをしているが全く届いておらず、ポケットにしまっていた黒い何かがコロンと転がった。
それが何なのか気になり、それを手に取ると黒くて硬い何かなのは分かったが、それが何なのか迄は分からなかった。
いや、このまま頑張っている姿を見続けても良いがそれでは新が可哀想だと思い、勝手ながらドアを開けてあげた。
「ごめんね、はい、どうぞ」
「ありがとう、とうどうのおにいさん! ねぇ、はやくはやく」
そう言いながらまた家の中へと引っ張ってくるので、渋々中に入ると、内側の扉の横に新専用の踏み台があるのを見つけた。
あれを使って外に出たのか。
つまり、中から出ることは出来るけど、逆は出来ないというわけだ。
だから外で待っていたり必死にドアノブに手を伸ばしていたのか、と納得していると新は乱暴に靴を脱いだかと思えば、ちゃんと靴を揃えてから中に入って行った。
「すみません、お邪魔します」
そう声をかけながら入れば、同じ間取りで同じ部屋の広さの筈なのに、荷物が2人分あるせいか僅かに狭く感じるも生活感溢れる家で、2人がここで仲良く暮らしているのがよく分かる風景だった。
それは良いのだが、先から焦げ臭い香りが鼻につく。
これは何の匂いだろうと、匂いのする方へと近付いていくとキッチンに不知火がいた。
それもさっき新が持っていたそれを手にして。
「はじめさん、とうどうのおにいさんつれてきたよ」
「え」
驚いたような声を上げたかと思えば、俺の方を見て目を見開いた。
かと思えば頭を抱え始めた。
僅かの隙間から見える頬が赤くなっているように見える。
「何ということだ…」
まさかこの焦げ臭さとあの黒い何かと新の口を封じたことって今頭を抱えていることと関係があったりするのだろうか。
「あのね、はじめさんってきほんてきにはなんでもできるんだけどね、りょうりだけはかいめつてきにできないの。さっきとうどうのおにいさんにみせたのはパンだったものだよ」
「パン?」
どうやったらあんな黒焦げて硬い物体になるんだ。
料理苦手にも程があるだろう。
「いまはじめさんがもってるのはゆでたまごだったものなの」
「卵…」
とても卵の形に見えないのだが、まだ黒い石鹸と言われたら納得できそうだ。
「………恥ずかしい所を見せたね。良ければ君も外に食べに行くかい?」
何とか立ち直れたのか、不知火は抱えていた手を外し苦笑いを浮かべながら俺を見る不知火に俺も思わずひきつった笑みを返してしまった。
まさか、新君が早くから着替える理由って外で食べてから真っ直ぐに迎えるようにとかそんな理由だったりするのだろうか。
「えっと、ですね…」
この様子だと何となくそんな気がする。
でも、そんな毎日外食していたら俺のようにガタガタの体になってしまうので今日は俺がキッチン借りて作れるもの作ってあげようかな。




