来客者
それからまた帰れない日々が続き、かれこれ1カ月近くが経過しようとしていた。
絶対今度休むときは2日間休みを取ってやると決め、何とか無理いって明日から2日間休みを貰えることになった。
もう何徹目か分からないくらいの隈を目の下に作り体力も限界を越えていたいたので助かった。
おそらくこの間のように1日は爆睡して終わりそうだが、あと1日は絶対に有効に使わなければ。
「東堂さん、明日から2日休みなんですってね。ゆっくり休んでよ、顔色悪すぎ」
メイクがまた変わった同僚にそう言われ、乾いた笑いを浮かべるとこの間までつけていた指輪が彼女の指から消えていることに気が付いた。
「あれ?指輪は?」
「え?もう、東堂さんって鋭いよね…実は、以前話してた男の人最近よく見かけるようになってね、その…何て言うかこれを見られたくないな、とか思っちゃったの」
勿論家ではしてるよ、と彼女は慌てたように言っていたが、別に結婚しているのだからわざわざ外さなくても良いのではと思うし、その男の人が誰かの父親の場合、その人にも奥さんが居るに違いない。
なのに、何故1人の女としてみて欲しいような言動をするのか俺には理解できなかった。
だからといってそれに口を出すのも面倒で、俺はふぅんと言って仕事に戻った。
これが終われば帰れる、と思いながら。
簡単に終わると思っていたそれは俺の思いとは裏腹に簡単に終わるわけもなく、最終的に終わったのは日付を越えた夜中の3時だった。
くたくたの体を引き摺り愛車に乗り込み、駐車場に着いた所で安心したのかそこで数時間寝てしまった。
「ヤバい何時だ」
慌てて時計を見れば朝の6時で、今回は疲れすぎたなと思いながら車から出てマンションの中へと入り、自宅に向かえばドアノブに袋がぶら下がっていた。
そういえばお隣さんから物を頂いたなぁ、と思いながら中を覗けば今回はお菓子が沢山入っていた。
その中に手紙がまた入っていた。
『とうどうのおにいさんへ
このあいだはたすけてくれてありがとうございました。
なかなかあえないからおかしぶらさげておきました。
あらたより』
どうやらこの間助けた男の子かららしい。
前回は不知火で今回は男の子から。
律儀な2人だと思いながら袋を手にして部屋の中へと入っていった。
それからまた窓を開けて、洗濯をしてシャワーを浴びて、洗濯物を干してベッドで寝た。
これでまた1日は起きないだろうと瞳を閉じながら思った。
目覚めたのはやはり翌日の朝4時で、1日をまた睡眠に使ってしまった。
今日こそあれやこれやするぞと決意しながら起き上がれば、外から雨の音が聞こえ布団は干せそうにないことを察した。
室内で干していた洗濯物を畳み、一度閉めた窓を全開にし古びたタオルを雑巾にして床を拭いた。
本当は掃除機があればかけるのだが、あいにくそんなものはこの家にない。
ワイシャツもアイロンがあればかけたいところだが、それもない。
あっても会社でかけられないし、ストックを何枚もロッカーにしまっておくことしかできない。
今日は後で溜まったワイシャツをクリーニングに出しに行こうと決め、スウェットを脱ぎ普段着に着替えた。
冷蔵庫は相変わらず水しかなく、食べられるものといえば昨日新という男の子から貰ったお菓子の山だけである。
今日の朝御飯はこれにしようと手を伸ばしたとき、インターホンが鳴った。
今まで家にいたときに鳴ったことのない音に最初は何事かと警戒していたが、インターホンの画面に人が映っているのでこの家のインターホンの音で間違えなさそうだ。
来客なんて珍しいな、と思いながら画面を覗けば、賢そうな顔立ちをした男の子の顔がドアップで映っていた。
カメラの高さからして男の子は誰かに抱き上げられていると考えると、来客者は2人。
不知火と新に違いない。
「はい」
「あ!いたよ、はじめさん!」
「そのようだな」
幼い声と低い声が機械を通して聞こえてきた。
あのときはずっと眠っていたから起きたときの姿を見るのは初めてだが、こんなにコロコロと表情の変わる子だったのか。
「今出ますから待っていてください」
一度インターホンを切り、玄関のドアを開ければ黒のスウェットを着た不知火と幼稚園の制服を着た新が居た。
「ふくろがなくなってたからいるかなっておもったんだ」
「ありがとう、新君。お菓子これから頂くよ。不知火さんもありがとうございました」
「何、この間のお礼さ。本当はもっとちゃんとしたものをお礼として返したかったんだが、なかなか会えそうになかったんでとりあえずのものをぶら下げさせて貰ったよ」




