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ヒーローになりたかった  作者: レイ
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お隣さん

解放されたのはそれから約2時間後で、その間も男の子はすやすや眠っていた。

起きる兆しが見えないので心配になるが、呼吸は正常だし脈も乱れが見えないし僅かに動いているので問題はなさそうに見える。

この子、そういえばどこの子なのだろうか。

マンションに帰ることが少なすぎて近所に誰が住んでいるのか全く知らないので、どこの階の子なのか分からない。

こんな真夜中に聞いて回るわけにもいかないので、眠っている所悪いがお越して自分の家を聞くしかないか。



「いやぁ、助かりました。警視のご子息でしたので何かあっては大変でしたよ」



事情聴取を終え、警察官がそう言ったときこの子供がただの子供ではなかったと知った。

まさかの警察官の子供だったとは。

これから子供を探すまでもなく家に遅れそうだ。



「そうだったんですね。何事もなくて良かったです。あの、それで申し訳ないのですが俺この子の家を知らないんです」



「あぁ、それなら大丈夫ですよ。今降りられてきましたので」



そう言われると同時に後ろにあったエレベータのドアが開き、背が高く体格の良い男が慌てて降りてきた。



あらた、無事か」



男にも何かあったのか、長い髪は乱れ額に流れる汗が次から次へと流れている。

サンダルも右左違うものは履いているし、スウェットは前後ろ逆だ。



「お疲れ様です。お子さんは彼のおかげで無事ですよ」



男は色素の薄く鋭い瞳をこちらに向けてから、俺の腕の中ですやすやと眠っている男の子を見てほっと息を吐いた。



「………そうか。良かった」



どうやら男が風呂に入っている間に男がピッキングをして部屋に入り込み、風呂のドアにも小細工をされたせいで出るに出られず、やっとの思いで外に出られたのが今だったそうだ。

あの短時間の間にあの男たち2人はそんなことしていたのか、とパトカーの中にいる2人に視線を向ける。



「では私はこのままあの者たちを署へ連行します」



「よろしく頼む」



そうして男2人は連れて行かれたのだが、残された俺は何となく気まずい。

ここは男の子を返してすぐに帰ろうと男の方へ振り向けば思いのほか近くに居て驚いた。



「巻き込んですまなかったな。新は預かろう」



「いえ、そんな」



男に男の子を手渡し、端に置いておいた鞄を手にして挨拶もそこそこに帰ろうとすれば、男も同じエレベータに乗った。



「君、名前は?今度お礼がしたいのだが」



「東堂です。お礼なんて必要ないですよ」



「そういうわけにもいかんだろう」



「いえ、本当に気にしないでください」



お礼は良いから早く帰って休みたい。

今日は久しぶりの休みなんだし、死んだように眠りたい。

そういえばエレベータのボタンが俺の押した7階以外押されていないということは男も同じ階に住んでいるということか。


エレベータの扉が開く音がして2人して降りれば向かう方向も同じのようで、どこまで一緒なんだと思いながら歩いていると、俺の家の横のドアの前に男が止まった。



「『東堂』といったら隣の表札に名前があったな。引っ越してきてからなかなか住民に会えなくて挨拶もできていなかった。俺の名前は不知火しらぬい はじめ。この子は月島新。弟の子供だ。よろしく頼むよ」



「こちらこそ、よろしくお願いいたします」



そう言って頭を下げた後に家に入っていった不知火に俺も軽く頭を下げ、自分の家に入った。

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