そして僕は世界を変える
明るい作品ではありませんので、読む時は部屋を明るくして画面から離れてお読みください。
僕にとって家が帰る場所であり、楽になれる場所であることには間違いない。
でも、たったひとつの理由だけで、心が安らぐ場所では無くなった。
きっかけはもう覚えてもいないような些細なことで。
それで始まった兄弟喧嘩が原因なのは分かっている。
心の中で「自分は悪くない」と思っていても、とりあえずどちらかが謝ればこと済んだのかもしれない。
でも、そうすることができるほど大人になれなくて。
むしろ今まで溜め込んできた不満が溢れてきて、止まらなかった。
その日から、家は居場所でありながら、ストレスを溜める場所に変わった。
最初のうちは「顔を合わせると不快だから」と食事や諸々の時間をずらす程度だった。
でも、だんだんと扉越しに聞こえてくる微かな声や、歩く足音すら聞いているだけで不快に感じるようになっていた。
出かけるタイミングが被った時は、後から来た方が引き返して待っていた。
「僕は舌打ちとかはしなかった」「不満を壁や机にぶつけたりしなかった」
なんて考えて、自分の方が大人だと思い込んだ。
そんなどうでもいいような細かいことでしか、差を見つけられないくらい同じ程度でしかなかったのに。
他の家族が間に入っても改善する気配がなかったので、そのままの関係で月日が過ぎていった。
そして半年ほど経った頃になって、僕らの様子に苛立ちを募らせていた家族の不満が溢れて来た。
僕らの様子だけでなく、もっと以前から溜めていた不満もぶつけられた。
そして、不満をぶつけられた僕らにとって、家族は敵になっていった。
否定して攻撃してくる「敵」
僕を悪者に仕立て上げようとする「敵」
ここぞとばかりに追い立ててくる「敵」
僕らが別々のタイミングで責められたのが、家族が敵になったと思考を加速させていたんだと思う。
幸いにも家庭崩壊というほど完全に壊れていないのは、原因たる僕らが隅に追いやられているからだろう。
表面上は家庭という形を保っているが、心情を反映すれば三つ巴の敵対関係だ。
そんな歪な家庭環境とは全く関係なく、学校や会社での日常があった。
課題や仕事、人間関係の中で自分の役割を演じて。
家に帰ったら、肩の力は抜けても、不満や苛立ちからくるストレスが溜まり続ける。
ストレスの吐き出し方を間違えてしまえば取り返しのつかないことになる。
それくらいの自制が効くところまでは保っていた。
動画投稿サイトや漫画、音楽や運動で少しずつ紛らわした。
どうしてもキツイ時は、やけ食いや酒の力に頼った。
睡眠時間を増やせば。
逆に減らせば。
笑顔を作るようにすれば。
少しだけ声を大きくするようにしてみれば。
日光浴を。無駄に過ごす時間を。何かに熱中することを。
………。
どれも最初は効果があるように感じたけど、1月かそこらでストレスが勝つようになった。
「相手を気にするからストレスに感じる」
気にしないようにすればたしかに気持ちは楽になった。
でも、その分だけほんの些細なことですら干渉があると、気に入らなく感じるようになった。
「『自分』を演じて、嫌なことを全部その『自分』に押しつければ良い」
外で演じる「自分」は、家の玄関を境に脱ぐことができる。
家で演じる『自分』も、家の玄関を境に脱ぐことができる。
でも、「自分」と『自分』の両方を脱ぐことができる場所は?
押し付けようにも、押し付けた『自分』を離さなければ、結局抱え込むことになってしまう。
無理に演じるだけ心が摩耗しそうで、試す勇気が出なかった。
他にも沢山の言葉に出会って、その度に実現できない自分の無力さ、無能さに負けた。
そして自分を責めて、惨めに思って。
責めて。
責めて、責めて、責めて。
責めて、責めて、責めて責めて責めて。
責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて責めて。
責め続けた僕は、昔読んだ漫画のセリフをおぼろげに思い出した。
「俺たちは、生まれる世界を間違えたわけだ」
…ただし、僕は異世界の存在を信じてはいない。
死んで転生したり、いきなり転移するなんてことも。
だから、先のセリフを僕に当てるとすれば、僕が間違えたのは
家族であり
時代であり
場所であり
…自分である。
その間違いは僕が僕である限り正されることがない。
…本当に?
自分は?
__変えようとして、責めて責めて責め続けた。
時代は?
__不可能だ。僕が僕である限り絶対と言い切れる。
では、場所は?
__「これまで」はもう変えられない。
でも「これから」なら多少なり苦労はあるだろうが、変えられるはずだ。
家族は?
__…方法は無数にある。
区分的な変化、概念的な変化、心情的な変換。
そして、法的で、公的な変化。
変えられる世界があるならば、その世界を変えてしまえばいい。
変えようとして変えられなかった自分が思いを鈍らせるけど。
責め続けてボロボロな自分を守るために、変えようと、変えたいと思った。
悪いのは自分じゃない。
世界が悪い。
込められた思いは違うかもしれないけど、今の僕の心を表すのに、これ以上ない言葉だと思う。
世界を間違えた。
世界が悪い。
世界が間違っている。
ならば世界を変えよう。
そして、僕は世界を変えることにした。
お読みいただきありがとうございます。
書いてから「タイトル詐欺かな?」とも思いましたが、収まりが良かったのでこのタイトルに致しました。
この作品の続きは考えていません。
万が一に書いたとしても、不連続な短編となります。
その時はシリーズとして紐付けするくらいにはまとめようかと考えています。