二組だよ!姫騎士ちゃん
バン!と大きな音を立て教室の戸閉めたのはエルフの少女キサラだった。
肩を釣り上げ大股で歩き怒りを隠そうともしない。
「なんなのあの女!!!」
ドカリと自席に腰を下ろす。
「どうしたの? 他のクラスの委員長との会合だったのよね?」
ふわりとキサラの机に降り立つ体長三十センチほどのピクシーの少女エンデ。
「どうこうもないわ! 二組のリヴィエラとかいう女! ちょっと大きい国のお姫様だからって選民思想に染まりきって、他種族を見下して!」
「えっと、鏡使う?」
「え、髪乱れてる?」
「いやまぁ、いいけどさ」
エンデがため息をついた、キサラは自慢のショートブロンドを手櫛でいじる。
「確かリヴィエラって人間が治める国として世界でもトップクラスの大国、ギヴァン皇国のお姫様よね」
ペラペラと手帳をめくりながら、エンデが情報を繰り出す。
「身長一七六センチ、体重四十八キロ、スリーサイズは上から八十九、六十三、七十九、姫として国政に関わる傍ら国内の治安を守る最強の姫騎士としても名高い、まぁお約束だけど顔もいいのよね」
「そのサイズの手帳どこで売ってるの?」
「購買にあるよ? 買うの?」
「いやいらないけど」
「なんなの……」
キサラは頭を抱える、自分がこの学園のトップに立つにはリヴィエラは間違いなく大きな障害になる。
「どうにかしてアレを撃退してやらないと――」
バン!と教室の戸が開かれる。
開いたのは渦中の人物リヴィエラだった。
清流のような爽やかな長い蒼髪をポニーテールにまとめ、烈火のごとく紅い瞳は怒りの炎で燃えているのがわかる。
「戸が壊れるでしょ! やめてもらっていい!? どんな教育を受けてるのかしら!!」
「鏡使う?」
「え、顔になんかついてる?」
「いいけどさ」
「これは貴女の従者ですか?」
怒りを滲ませながらも努めて冷静でいようとする声だった。
リヴィエラは片手で引っつかんでいるものを教室に投げ込む。
それはそれは美しい、絹のドレスのような滑らかで光沢のある白い毛並みの――馬だった。
「どうも、スイートマイバージン」
ユニコーンのジャスティン、渾身の歯茎スマイル。
「知らない馬です」
「はっはっは、照やさん」
自慢の一角をキサラのおでこにコツン。
同時にキサラの右フックがジャスティンの横っ面を張り倒す。
倒れたところにファイアボルトを撃ち込み、馬の丸焼きの完成だぁ!
「今夜は馬肉パーティね」
「私を食しますか、それもいいでしょう、私のこの身が処女の血肉になると思えば喜びもひとしお……」
「ヴェスタはいっぱい食べるから、この量で足りるかしら?」
「NO!! 非処女NO!!!!」
こんがりとした香りをさせつつ暴れるジャスティンの首元に剣が当てられる。
先ほどより怒りのボルテージが上がっているリヴィエラが爆発寸前といった顔を見せていた。
「私の話をしていいかしら……?」
「ど、どうぞ……」
完全に気圧されるキサラ、押しに弱い女である、自覚はない。
「この馬が!」
「ユニコーンです」
「黙れ!!」
「はい」
ジャスティンも負けた。
「うちのクラスの女子生徒に卑猥な言葉を投げかけ、あまつさえそれを咎めたこの私に……!!」
「あぁ、処女であることを私が祝福したことですか! 恥じることはありません、処女であることは自然の摂理ですから――オヴォフっ!」
キサラとリヴィエラのダブルアーツコンビネーションがジャスティンを浮かせた。
「このギヴァン皇国の第一皇女である私が、人前であのような恥ずかしめを……!」
「つっても皇女なんだから、この馬じゃないけど実際貞操は価値なんじゃないの?」
「人前で処女であることを公言されるのとは別でしょう!!!」
もはや涙目である。
「あー、じゃあどうする? この馬回復魔法だけはガチだから生半可に殴ってもどうこう出来ないけど」
「お父様にお願いして、国を挙げて死なないように厳罰を与えます」
「良かったわね、処女からのご褒美よ」
キサラの言葉にヒヒンといななくジャスティン。
ダン!と剣がキサラの足元に刺さる。
「このクラスの責任者は貴女ですよね?」
「はい」
「連帯責任という言葉はご存じでして? まさか聡明なエルフ様が知らないとは思いませんけれど?」
エルフという種族を指しての挑発、キサラはこれに乗らざるを得ない。
「何をすればいいの? 頭を下げるのごめんよ」
「初手にそれが言えるのすごいよ! 流石うちの頭ね!!」
エンデが面白そうにツッコむ。
「それでは勝負しましょう」
「はい?」
リヴィエラが剣の切っ先をキサラに向ける。
「私のクラスの精鋭と勝負し、貴女方が勝てばそこの駄馬だけを罰します。 貴女が頭を下げる必要はありません」
「負けたら?」
「そうですね……、頭を下げた後にクラスごと私の傘下に入ってもらいます、私が貴女方を正しい道に導きます」
「そんなの通るわけないじゃない、こちらが勝ったらそっちがうちの傘下に入るのが筋でしょう!?」
「うそでしょ?」
思わずエンデが嬉しそうな声を上げた、お祭り好きの血が騒いできたようだ。
全体で見れば非はキサラ達三組にある、この状態で条件をつけれる権利はキサラにはない。
リヴィエラはキサラを睨み付ける、こんなバカの集まりにコケにされた事は一国の姫としてのプライドが許さない。
徹底的に叩き潰して自分の立場を分からせてやる、と瞳に新たな炎が宿る。
「勝負は次の休暇日! すなわち三日後!」
「三日と言わずここでケリつけてもいいのよ! ほらヴェスタ起きなさい、敵襲よ! あんたの力でぶっとばしてやりなさい!」
先ほどから自席でいびきをかいていたヴェスタを起こしてけしかけようとキサラが動く。
次の瞬間、キサラは宙を舞っていた。
寝ぼけ半分のヴェスタの拳がキサラを容赦なく殴り飛ばしたのだ。
「ヴェスタ、寝起き悪いから気を付けてね」
「……もう少し…早く言って……」
キサラはそのまま気絶した。
こうして、二組と三組の抗争が幕を上げた。