99/137
30
★?? 午後十時 (ファイル番号30)
「え? 何を……」
銃声が響き、俺の言葉はかき消された。
彼女の手には、さっき俺がテーブルに置いた、Mー458スペシャルが握られている。
――なぜだ?
混乱する俺の耳元にその愛らしい唇を寄せ、彼女はささやいた。
――ああ、そうか。
俺は目を閉じた。信仰心などかけらも持たない俺だが、死を目前にした今、神と名のつく者に祈りたくなった。彼女のために。
「主よ、どうか彼女をお許し下さい。彼女は自分が何をしているのか、分からないのです……」
薄れゆく意識の中で、俺は最後に彼女の声を聞いた。
「ありがとう……」
彼女の赤い傘が、黒に染まりゆく俺の視界から消えていった。




