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★昨日 午前十時六分 (ファイル番号08)
「おはようございます」
「おはよう。例のスタンリー・クラークソンの件、進捗はどうだ」
俺がオフィスに入った途端、ダンはチェックしていた書類から目を上げて、単刀直入に切り出した。ダンの話し方はいつでもこうなのだ。
「まだ何も」
「そうか」
ダンの太い眉が、微かに動く。
「だが、あまりのんびりとはしていられない」
ダンは俺に小さな紙片を放ってよこした。見ると、意味をなさない数字とアルファベットの羅列が書き殴られている。
「これは?」
「奴の業務用端末の管理者用パスワードだ。システム管理部から特別に手に入れた。これがあれば、ネットワーク経由で端末にログインできるそうだから――」
「課長、失礼します」
ダンの秘書がオフィスのドアをノックし、顔をのぞかせた。
「お話中に申し訳ありません。午後からの各課長定期ミーティングが、都合により午前十時半からに変更になりました」
ダンは腕時計を見て、いまいましげに舌打ちした。
「仕方ないな。私は出てくるから、進めておいてくれ。奴は今日、業務研修会で夕方まで戻らないはずだ」
「分かりました」
自分のデスクへ戻る途中、スタンリーの席に目をやった。彼はいない。今日は業務研修会とやらに直行なのだろう。
俺は時間を確認した。午前中は取り調べがある。午後から取りかかろう。自分のデスクで連絡や雑用を済ませ、それから慌ただしく部屋を出た。




