今日 午前九時四十四分 (ファイル番号35)
「それから次は、こいつだ」
ダンが次のファイルを放ってよこした。最初のページに掲載された顔写真に、俺は首をかしげた。
「これは――、ボリス? ボリス・マッキンリーですね。なぜ彼を?」
ボリス・マッキンリーは、ダウンタウンのいわゆる「便利屋」だ。違法の品々をさばいたり、面倒ごとの後始末をしたり、ちょっとした使い走りを引き受けたりと、ケチな仕事で細々と稼いでいる。だが中々にただのチンピラと侮れない男で、驚くべき人脈と独自のルートを持っているのだ。トリッキーな依頼もうまいことこなしてしまうので、ダウンタウンでは重宝されている。情報屋として、時々は警察の役に立つこともある。
先日ダウンタウンで起きたとある抗争事件に彼が関わっており、俺はその件の調査担当だった。その関係で、ここ最近何度か彼を出頭させて取り調べを行っている。
「昨日の午前中も、君はこの男から調書を取っていた」
「ですが、ボリスに俺を殺すどんな動機があると?」
「この仕事をしていればよくあることだが、今までに君が挙げた犯罪者の中には、逆恨みしている奴もいる。そういう連中からの依頼で、ボリスが手を下した可能性もある」
「ああ、なるほど」
ボリスの稼業を考えてみれば、ありえることだ。
「分かりました」
俺は受け取ったファイルを、もう一つのファイルに重ねた。