二週間前 午後?時四十二分 (ファイル番号01)
歩調を緩めると、通りすがりのショーウィンドウに興味を引かれ、のぞき込むふりをする。ガラスに映る自分の肩越しの背後に目をこらしたが、行き交う人々が足早に通り過ぎてゆくだけだ。
不意打ちで、すばやく振り返る。しかし、怪しいそぶりを見せる人間などいなかった。
――気のせいか。
軽くため息をつき、歩調を戻す。
最近は警察局内のあちこちで、組織浄化計画の一端を担う、新しい仕組みが次々と導入されている。先日も情報管理部から、セキュリティの強化を行うとの通達があった。警察局全体を包むそんな雰囲気のせいで、神経過敏になっているのだろう。尾行されているなどと、考え過ぎだ。あのことはそう簡単に露見しない。
――だが……。
ふと足を止め、考え込む。
本当に、そうだろうか?
実は上層部は既に、情報漏洩の事実を掴んでいるのでは。こうして安穏としている間にも、知らぬうちに捜査の手は伸びていて、今はまだ泳がされているだけ、ということも……?
――先手を打つべきだ。
そう。万が一にでも、ことが明るみに出てからでは遅い。そうなれば身の破滅なのだから、手をこまねいているよりも、先に動くべきだろう。
場合によっては、「極端な手段」を取る必要がある。だが、それもやむを得ない。
頭の中で計略を巡らせながら、ゆっくりと繁華街の人混みに紛れ込んでゆく……。