今日 午後十二時五十一分 (ファイル番号25)
ミーティングを終えたスタンリーがオフィスに戻るなり、待ち構えていた俺は声をかけた。
「ちょっとつきあってくれ」
少し考えて、捜査部の建物からほど近い、なじみのカフェに向かった。いつも昼時は警察局の職員で賑わう店だが、思った通りこの天気と中途半端な時間帯のせいで、店内に客はまばらだった。
カウンターでコーヒーを注文する。
「驕るぜ」
スタンリーは首を振った。他人の手で提供されるものは一切口にしないと言ったのは、誇張ではなかったらしい。
窓際の席にかけると、スタンリーは人目をはばかるように辺りを見回した。そして俺の方へ身を乗り出し、小声で聞いた。
「……それで?」
さすがの俺も、これには困惑した。何が、「それで」なのか分からない。分かるのは、昨日俺たちの間に何かあったことだけだ。一昨日まで俺たちの間には、「それで」で会話を始められるような、情報の共有はなかった。
俺は一瞬考え、あくまでもとぼけているような口調で答えた。
「何がだ?」
「何が、って……!」
スタンリーはいら立った声を上げたが、慌てて周りを見回して声を落とした。しかしうまい具合に、次第に強くなる雨足が窓ガラスを打ち、会話が漏れるのを防いでいる。
「昨日のこと、いい案は浮かんだのかい? 冗談言ってる場合じゃないだろう」
「…………」
スタンリーは情報漏洩の犯人ではない。それは確かだ。真犯人に、濡れ衣を着せられそうになっている。
「スタンリー」
俺はスタンリーの方へと向き直り、正面からその顔を見据えた。
「実は上からの命令で、君のことを調査していた。君の端末を調べて――」
「ちょ、ちょっと待て」
スタンリーは片手を上げて俺を制した。
「それは昨日聞いたよ。だからさ、真犯人の始末をどうつけるか……」
「真犯人というのは、誰のことだ?」
「おいおい、」
スタンリーはキツネにつままれたような顔で俺を見た。
「どうしたんだよ、ランドルフ。一体……」
「俺は覚えていないんだ。昨日のことを、何も」
「え? それはどういう……?」
「後で説明する。だから今は、話してくれ。昨日、何があったのか――」




