今日 午後二時八分 (ファイル番号43)
スタンリーは持参していたポットからコーヒーをつぎ、一口飲んだ。俺はその様子をじっと見ていた。スタンリーは思案に集中し、半ば無意識にコーヒーをすすっている。
「つまり、うまくやらなけりゃ……、また同じ『昨日』が繰り返される。そういうことだな?」
スタンリーは言った。
「ああ」
「奴が今日もまた、君を消す……」
「俺がこうして真実にたどり着いたと知れば、そうするだろう。どうせ復元されることになるが、少なくとも、その復元された『俺』はまだ犯人を知らない。それならもう一度、『今日』をやり直させればいい。自分に都合のいい結末になるように」
「……ぞっとするな」
スタンリーは顔を伏せた。極端に死を恐れるスタンリーにとって、その瞬間を何度も味わうなど、恐怖以外の何物でもないだろう。
俺たちはしばらく黙ったまま、それぞれに考えを巡らせた。
「スタンリー。携帯用の端末を持っているだろう。奴の個人情報を見ることができるか?」
「あ、ああ」
ぼんやりしていたスタンリーは飲みかけのカップを脇に置くと、鞄から携帯端末を取り出して操作し始めた。こういう作業をしている時のスタンリーは、はた目にも分かるほど集中している。彼のようなタイプの人間は、並外れた集中力の持ち主なのだろう……。
ほどなくしてスタンリーは、目的の情報にたどり着いたようだ。
「そら。これでいいかい」
情報が表示された携帯端末を俺に渡す。俺がそれを受け取って眺めていると、スタンリーはコーヒーを口元に運んで一口すすった。
「さて、どうしたものだろうな。俺としては……」
俺はふと言葉を切った。スタンリーは俺の声が聞こえていないかのように、じっと考え込んでいる。
「どうかしたか? スタンリー」
「うん、実はちょっと。この件とは関係ないと思ったから、話していなかったけど……」
次の瞬間、スタンリーが手にしていたカップが、軽い音を立てて地面に落ちた。そしてスタンリーの体は小刻みに震え出した。
「どうした?」
スタンリーは答えない。目を剥き、激しくけいれんし始め、肩から地面に崩れ落ちる。
「おい! しっかりしろ! スタンリー!」
俺は大声で叫び、倒れている彼の横に跪いた。その拍子に蹴飛ばされたカップが、どこかへ転がっていった。飛び散ったコーヒーが乾いた土に染み込む。俺はスタンリーの体を力いっぱい揺さぶり、さらに大声で叫んだ。
「スタンリー!」




