表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バックアップの男  作者: 桜井あんじ
バックアップの男
31/137

今日 午後二時八分 (ファイル番号43)

 スタンリーは持参していたポットからコーヒーをつぎ、一口飲んだ。俺はその様子をじっと見ていた。スタンリーは思案に集中し、半ば無意識にコーヒーをすすっている。

「つまり、うまくやらなけりゃ……、また同じ『昨日』が繰り返される。そういうことだな?」

 スタンリーは言った。

「ああ」

「奴が今日もまた、君を消す……」

「俺がこうして真実にたどり着いたと知れば、そうするだろう。どうせ復元されることになるが、少なくとも、その復元された『俺』はまだ犯人を知らない。それならもう一度、『今日』をやり直させればいい。自分に都合のいい結末になるように」

「……ぞっとするな」

 スタンリーは顔を伏せた。極端に死を恐れるスタンリーにとって、その瞬間を何度も味わうなど、恐怖以外の何物でもないだろう。

 俺たちはしばらく黙ったまま、それぞれに考えを巡らせた。

「スタンリー。携帯用の端末を持っているだろう。奴の個人情報を見ることができるか?」

「あ、ああ」

 ぼんやりしていたスタンリーは飲みかけのカップを脇に置くと、鞄から携帯端末を取り出して操作し始めた。こういう作業をしている時のスタンリーは、はた目にも分かるほど集中している。彼のようなタイプの人間は、並外れた集中力の持ち主なのだろう……。

 ほどなくしてスタンリーは、目的の情報にたどり着いたようだ。

「そら。これでいいかい」

 情報が表示された携帯端末を俺に渡す。俺がそれを受け取って眺めていると、スタンリーはコーヒーを口元に運んで一口すすった。

「さて、どうしたものだろうな。俺としては……」

 俺はふと言葉を切った。スタンリーは俺の声が聞こえていないかのように、じっと考え込んでいる。

「どうかしたか? スタンリー」

「うん、実はちょっと。この件とは関係ないと思ったから、話していなかったけど……」

 次の瞬間、スタンリーが手にしていたカップが、軽い音を立てて地面に落ちた。そしてスタンリーの体は小刻みに震え出した。

「どうした?」

 スタンリーは答えない。目を剥き、激しくけいれんし始め、肩から地面に崩れ落ちる。

「おい! しっかりしろ! スタンリー!」

 俺は大声で叫び、倒れている彼の横に跪いた。その拍子に蹴飛ばされたカップが、どこかへ転がっていった。飛び散ったコーヒーが乾いた土に染み込む。俺はスタンリーの体を力いっぱい揺さぶり、さらに大声で叫んだ。

「スタンリー!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ