昨日 午後八時五十六分 (ファイル番号17)
今日はケリーの誕生日だ。無邪気でいたいけなケリーのためだけに、俺とメグは、「今は良き友人同士となった元夫婦」を演じた。
レストランで親子三人の睦まじい食事を済ませ、俺とケリーは笑顔で手を振ってメグと別れた。メグは妙にそそくさと帰っていったが、どうせ新しい男でもできたのだろう。
二人で帰宅した後は、リビングでケーキを食べながら、子供向けの映画を一緒に鑑賞した。ケーキを頰張りながら、時折俺の方を向いて笑うケリー。彼女にほほ笑み返しながらも、俺の頭は当面の問題で半ば埋まっていた。
――情報漏洩の真犯人は、あの男だった。
俺は迷いを振り払うかのように、頭を振った。本音を言えば――、まだどこか信じられずにいるのだ。
彼は貧しい生まれの苦労人で、その能力だけを頼りに今の地位を手に入れた。有能で、信頼に足る人物で、なにより良心というものを持っている。俺は経験上、生まれつきそれを持たない人間がいるということをよく知っていた。だからこそ、彼に限ってはそういう類の人間ではないと断言できるのだ。
――だがしかし。誰にでも、魔が差すことはある。
「パパ?」
ケリーの声で、俺は我に返った。
「もう、パパってば! ケリーのおはなし、きいてる?」
俺の隣で、ケリーは唇を尖らせていた。
いけない。ケリーとの、今この一時を大切にしなければ。まして今日は彼女の誕生日なのだ。
「なんだい、ケリー。パパはちゃんと聞いてるよ」
俺はケリーに笑いかけ、頭を撫でて抱き寄せた。そう、考えごとは後だ。




