昨日 午後四時十八分 (ファイル番号12)
研修会を終えたスタンリーがオフィスに戻るなり、待ち構えていた俺は声をかけた。
「ちょっとつきあってくれ」
少し考えて、いつもスタンリーが人付き合いから逃れるように昼食を取る、あの公園に向かった。途中、そろそろ店じまいを始めている道端の移動式カフェで、コーヒーをテイクアウトした。
「驕るぜ」
スタンリーは首を振った。他人の手で提供されるものは一切口にしないと言ったのは、誇張ではなかったらしい。
昨日と同じベンチに並んで腰かけると、スタンリーは持参してきたポットから紅茶をカップについで飲んだ。そして、困惑した顔を俺に向ける。
「一体なんだっていうんだ、ランドルフ。用もないのに構うのはやめてくれないか」
「必要があったのさ」
俺はコーヒーを一口すすり、顔をしかめた。
「実は上からの命令で、君のことを調査していた」
「えっ。な、なんだって!?」
スタンリーは見る間に真っ青になり、ベンチから腰を浮かせた。俺は片手を上げてそれを制した。
「まあ待て、最後まで聞けよ。実は、警察局の機密情報を外部に流している奴がいるんだ。君はその犯人だと疑われた」
「僕が!? 情報を――、流しているだって!? ど、どうしてそんな。違う。僕じゃない! 僕はそんなことはしていない!」
「ああ、分かってる」
「え?」
「だからこそ、こうして君に腹を割って話してるんだ」
俺があっさりと主張を認めたので、スタンリーは拍子抜けしたらしい。ぽかんと口を開けて俺を見つめている。
「実は君が外出している間に、管理者用パスワードを使って君の端末を調べたんだ。そして、決定的に見える証拠を山ほど発見した。だが――」
俺が彼の無実を信じ、発見された証拠はでっち上げだと確信するに至った経緯を説明すると、スタンリーにも合点がいったようだ。
「つ、つまり、誰か――、情報漏洩の真犯人が、僕に濡れ衣を着せようとしたんだな?」
「そうだ。しかし、問題はその証拠が偽装だと証明できないことなんだ。このままでは真犯人の狙い通り、君は無実の罪で逮捕される」
「そんな! ランドルフ、た、助けてくれよ。……仲間じゃないか」
仲間、などという慣れなれしい言葉がスタンリーの口から飛び出したのには、俺もいささか驚かされた。俺は慎重に言葉を選んだ。
「……俺としても、そんなことを許すわけにいかない。だが実際、そうさせないためには真犯人を捕まえるしかないな」
「そ、そうだな……。でもどうやって……」
俺は腕時計を見た。既に就業時間を過ぎている。
「端末に残された偽の証拠を、もう一度調べてみようと思う。今のところ、真犯人の残した唯一の手がかりだ。そのために――」
俺はスタンリーに向かって目配せをした。
「――君の、『スキル』が必要だ」
俺の言葉に、スタンリーは自信に満ちた笑みを浮かべた。
「……分かった。任せてくれ」
俺たちは揃ってベンチから立ち上がった。




