昨日 午後一時四十四分 (ファイル番号10)
俺は軽く息をつき、背もたれに体重を預けて伸びをした。ポケットに手を突っ込むと、シュガーコーテイングしたナッツと干しぶどうの紙袋を取り出す。
――どう考えても、おかしい。
ナッツをいくつかまとめて口に放り込みながら、俺は再びモニタに向かった。
スタンリーが研修会へ出かけた隙に、俺は彼の業務用端末にネットワーク経由でログインした。そしてハードディスク内のデータを調べてみたのだが、念入りに探すまでもなく、情報漏洩の「証拠」の数々が見つかったのだ。
どこかのバーで撮ったらしい写真。堅気ではないと一目で分かる風貌の男と、いかにもいかがわしい街の女がスタンリーと一緒に写っている。男の顔には見覚えがあった。この地域にいくつかある、小規模組織の一つに属する男だ。
こういう連中がマネーロンダリングに使う、怪しげな貸金庫の契約書もあった。
機密書類であるはずの、捜査部職員の個人情報ファイル。捜査部会議の議事録ファイル。ネットワークのログを見ると、これらの機密ファイルが保管されるサーバーに、この端末からアクセスした形跡が残っていた。地域課の取り締まりスケジュールや押収品目録、逮捕者リストなどもある。
こういったファイルが内部情報を事細かに記したメールに添付され、外部へと送信されていた。
決定的な証拠の数々だ。誰が見ても、スタンリーが情報漏洩をしていたと思うだろう。
だが皮肉なことに、俺にとってそれらは、スタンリーの無実を確信させる証拠に他ならなかったのだ。




