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今日 午前八時 (ファイル番号22)
奴は何も覚えていないはずだ。いや、覚えていないというよりも、バックアップを取った昨日の朝以降の記憶を元々持っていないのだ。
――問題ない。
昨夜、死体をダウンタウンに運び、物取りの犯行に見せかけるため財布を抜いておいた。これで奴の死と、例の件との関連が追求されることはないだろう。
コーヒーを口元に運んで息をついた拍子に、オフィスの窓から外の光景が目に入る。空はどんよりと曇り、今にも降り出しそうだ。
毎朝の習慣通り、新聞にざっと目を通す。業務連絡を確認してメモを取り、承認が必要な書類の束を手元に引き寄せる。いつもと変わらぬ朝だ。これほど落ち着いていられるのが、自分でも不思議なくらいに。