68
★今日 午前九時二分 (ファイル番号68)
「目が覚めたか、ランドルフ」
遠い闇の中から響いてくる声に導かれ、俺はうっすらと瞼を開いた。
「気分はどうだ」
ベッド脇に立っていたダンが、病人を相手にするような穏やかな声音で、また俺に声をかけた。
「ええ……。大丈夫です、ボス。あの、俺は一体……?」
「君は理性的な男だ、ランドルフ」
ダンの唐突な言葉が俺の思考を遮った。
「変にごまかさず、単刀直入に話をした方がいいと私は考えている」
「ええ。ダン、何があったのか教えて下さい。記憶が曖昧で思い出せません。今朝出勤したところまでは覚えているのですが」
「そう。君の記憶はそこまでしかないのが当然だ。君はバックアップなのだから」
「え……!?」
「昨日朝のバックアップから復元されたのが、今ここにいる君だ」
「俺が……?」
俺は思わず、顔の前に自分の両手を持ってきて眺めた。
「俺の、元の……、『オリジナル』は、どうなったんです?」
「死んだ。正確には、殺されたのだ。昨夜遅くダウンタウンの路上で、他殺体で発見された」
「殺された!? 一体誰に、なぜ!?」
「まだ分からない。君には……、その調査に当たって欲しい。それが、バックアップから復帰後の初任務だ」