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バックアップの男  作者: 桜井あんじ
警察局捜査官連続殺害事件捜査報告書
133/137

64

★今日 午後九時四十八分 (ファイル番号64)



「さあ、帰ろうか。ケリー」

 この辺りではタクシーを捕まえるのは難しい。だが家までさほどの距離でもないので、俺はケリーの手を取って歩くことにした。ケリーは眠そうだったが、とりとめもないおしゃべりを続けている。家までもうじきというところで、俺は大切なことを思い出した。

「しまった。すっかり忘れてたよ」

 俺はポケットから、あの小箱を取り出した。

「ハッピーバースデー、ケリー。今日で六歳だね」

 彼女の前に、うやうやしくそれを差し出す。ところが――。

 ケリーは大きな瞳をぱちくりさせ、首をかしげている。黙ったままプレゼントの箱をじっと見つめ、何か一生懸命に考えている様子だ。

「どうした?」

 何か気に入らなかったのだろうか?

「ねえ、パパ……?」

 ケリーは、身につけたネックレスに手を触れた。戸惑った表情で、俺の顔とそのネックレスを交互に見比べている。イミテーションの宝石がついた、派手なネックレス。さっきまでペンダントの下に隠れていて、見えなかったのだ。俺が今まで見たことのない、彼女に買い与えた覚えのないネックレスだった。

 俺はハッとした。

 そうだ。ケリーの誕生日は、昨日だ!

 今ここにいる俺は、「昨日」の俺なのだ。昨日の朝のバックアップから復元されたので、俺の日付の感覚は一日遅れている。だが実際にはケリーの誕生日は昨日で、俺は殺される前に、ケリーにこのネックレスをプレゼントしたに違いない。ケリーは一度もらったはずのバースデープレゼントをもう一度渡されて、戸惑っているのだ。

 俺は慌てて取り繕おうとした。

「すまない、ケリー。これはその……、パパはちょっと、うっかり忘れてしまって……」

「いっかい死んじゃったからだよね? ケリーしってるよ」

 ケリーはまるでガラスのように無垢な瞳で、俺の顔を見上げた。そして俺の手からプレゼントを受け取る。

「え? ケリー、何を……」

 銃声が響き、俺の言葉はかき消された。

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