60
★今日 午後六時四十二分 (ファイル番号60)
間一髪。俺が叫ぶのがほんの少し遅ければ、今頃笑っているのはダンだったろう。
ダンは心臓を射抜かれ、勢いで後ろに倒れ込んだ。俺は慌ててその体を支えた。もしリモコンがぶつかって作動したらことだ。
ダンのポケットを探り、リモコンを取り出す。そうしてから彼の体を床に横たえた。
「よくやってくれた、スタンリー。助かったぞ」
「い、いや、その、僕は……。だって、こうするしか……」
スタンリーは青い顔で震えている。まあ無理もない。
「初めてか? 人を撃ち殺すのは」
「…………」
俺はダンの手に握られたままの銃から指を外し、手に取った。Mー458スペシャルだ。
「そう怯えることはないさ。どうせ、バックアップがあるんだからな」
「だ、だけど、」
その言葉を最後まで待たずに銃声が響き、スタンリーの体は床に崩れ落ちた。それはまるでケリーが遊び飽きて放り出した人形のようで、現実感がまるでなかった。人の死というのは、案外この程度のものなのだ。撃たれたスタンリーにも、最後まで何が起きたか分からなかったに違いない。
彼が完全に息絶えていることを確認してから、俺は手にした銃とリモコンをそばのテーブルに置いた。
「まったく、君のおかげで大変な目に会った。もっとずっと早くに、こうしておくべきだったよ」
独り言を呟き、スタンリーの死に顔を見下ろす。
飲み物にナッツを落としただけであっさり「事故死」してくれたので、すっかり安心していた。まさか個人でバックアップサービスに加入していたとは。
俺の言葉が聞こえるはずもなく、スタンリーはただそこに転がっているだけだった。




