表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バックアップの男  作者: 桜井あんじ
警察局捜査官連続殺害事件捜査報告書
126/137

57

★今日 午後六時二十三分 (ファイル番号57)



 家路を急ぐ人々をうまいことよけながら、ダンは慣れた動作でダウンタウンの裏通りを運転していった。

 そして車は、ある古ぼけたアパートの前で止まった。

「ここは?」

「私の家さ」

 ダンにそう言われ、俺は少なからず面食らった。

 以前のダンは、アッパータウンにある小ぎれいなアパートに妻のエレンと住んでいた。警察局の上級職員で、高給取りのダンの生活ぶりは、はた目に見ても充分な経済的余裕があるものだった。しかし今の住まいだというこのアパートは、治安の悪い地域によくある貧困層向け集合住宅だ。アパートの周りにたむろする目つきの良くない連中が、遠巻きに俺たちを眺めている。

「引っ越したとは知りませんでしたよ」

 俺は戸惑いつつ言った。

「あのアパートは売った。金がいるんでな」

「金?」

「そう。エレンの治療費だ。保険がカバーしない最先端のガン治療には、金がかかる」

 ダンが悪事に手を染めてまで得た金を何に使っているのか、俺はずっと疑問に思っていた。彼は金遣いの荒い男ではないと、長年のつきあいで知っていたからだ。しかし、ようやく合点がいった。

「バックアップは取っていなかったんですか?」

「……あるさ。俺の給料ではそう頻繁にはできないので、だいぶ古いものだがね」

「それは良かったですね。それなら、」

 ダンが鋭い口調で俺の言葉を遮った。

「ガンに冒されたエレンの治療は諦め、死亡したらバックアップから健康なエレンを復元すればいい。君もそう言うのか?」

「だって、仕方ないじゃありませんか」

 治療するよりむしろ、その方が安上がりだ。

「ガンと戦って、エレンはなお生きようとしている。それが、生きるものの理なんだ。――私にはできん」

 やれやれ。俺は内心、ため息をついた。ダンがこんなセンチメンタリストだとは知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ