55
★今日 午後五時四十四分 (ファイル番号55)
それはどこかの家のリビングらしい。画面の中のケリーは、時々伸びをしたり部屋の中をキョロキョロ見回したり、落ち着かない様子でいる。
――悪い予感が当たった。
俺はそっと目を閉じた。
「言う通りにすれば、ケリーは無事に返してやる。そういうことですね」
「その通りだ」
「約束してくれますか」
「ああ。君の記憶さえなくなれば、あの子に用はない。わざわさどうにかする意味もないさ」
俺はしばし考えを巡らせた。確かにダンの言う通り、俺が条件を飲みさえすれば、わざわざ危険を冒して子供を殺してもダンは得るものがない。
「……分かりました」
俺は体の力を抜いた。俺の負けだ。どんなものも、俺の天使には代えられない。
「では、一緒に来てもらおう」
ダンはモバイル端末を胸ポケットにしまうと、俺を促した。だが俺は首を振った。
「一つだけ、条件があります。記憶の書き換えをする前に、ケリーに会わせて下さい」
「ケリーは安全な場所にいる。心配しなくていい。終わったら一緒に家に送ってやるさ」
「ですが、これがリアルタイムの映像だとどうして証明できますか? 実際は録画で、ケリーは既に殺されているのでは?」
「ふむ……」
ダンは眉をひそめた。
「私は信用がないらしいな」
「今さらじたばたする気もありません。ケリーに会って無事を確認できればいい。そうしたら、あなたのシナリオ通りにやりましょう」
ダンはしばらくの間考えていたが、
「……いいだろう」
と言った。




