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バックアップの男  作者: 桜井あんじ
警察局捜査官連続殺害事件捜査報告書
122/137

53

★今日 午後五時四十一分 (ファイル番号53)



 俺はダンとの距離を目で測った。

 一瞬でいい。僅かの隙さえあれば。しかしダンはそんな考えを見透かしたように、

「おかしなまねはするなよ」

 と吐き捨てた。

「私だって長年の友人に銃を向けるのは、あまりいい気分じゃないんだ」

「おかしなまねをしようがしまいが、どちらにしろ殺すんでしょう」

「そうしたいのは山々だが」

 ダンは銃口を、俺の胸にしっかりと向けたまま言った。

「そうしたところで結局、私は立場上、君を復元せざるをえない」

「では……?」

「言っただろう。違う結末で今日を終える、と」

 ダンは笑った。

「君の提案の代わりに、こういうのはどうかな。私だけが君の弱みを握る。君は私の秘密を忘れる」

「忘れる……?」

「そう。私はある男と親しくしていてね。富裕層向けにバックアップサービスを提供する、民間会社を持っている。その会社ではバックアップだけでなく、記憶をカスタマイズする技術を研究しているんだ」

「まさか。脳の記憶領域内の操作は、まだ実用段階ではないはずです」

「もちろん、連邦保健機構の認可はまだ下りていない。だが技術的には、記憶データ全体のバックアップが可能なんだから、部分的な削除や上書きだって可能さ。特にその会社の技術力は、他社に一歩抜きん出ていてね」

「つまりあなたは俺を殺すのではなく、都合の悪い記憶だけ削除しようと……?」

「どうだ、いい手だろう」

 ダンの目尻に、狡猾な皺が寄った。

「もし、嫌だと言ったら?」

「ああ。実はそこのところが、ちとやっかいなんだがね」

「やっかい?」

「どうも人間というのは、なかなか複雑にできているらしいな。記憶操作される本人が、それを積極的に受け入れる精神状態でないと、うまくいかないそうなんだよ」

「では、あなたのプランは実現不可能ですね。あなたがこうして銃を突きつけて脅したところで、記憶操作を受け入れたくないという俺の心理はどうにもなりません」

 ダンは鼻で笑うと、片手でポケットを探った。俺の胸に嫌な予感が湧き上がる。

「良き友人、と君は言ったな。だが、人間関係にはバランスというものが大切だ。そして私は、そのバランスを崩す切り札を持っている。私たちはもう、良き友人同士ではいられないんだよ」

「なんですって?」

「見てみろ」

 俺に差し出されたモバイル端末。そのスクリーンには、どこか見覚えのない部屋で一人ソファにかけ、絵本を読んでいるケリーの姿が映し出されていた。

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