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★今日 午後五時三十分 (ファイル番号52)
「バックアップ!? あなたも? ということは……」
「そうだ。殺されたんだ」
「なんですって!? あなたは俺を殺したんでしょう」
「ああ、そうさ。だがその後で、私も殺された」
「誰に……?」
ダンはせせら笑った。
「君の申し出は私にとって、願ってもない話だ。断る理由はない。――昨日の私も、そう考えたはずだ」
「…………」
「だがその結果はどうだ? 取引に応じたにも関わらず、私は殺された。結局君は始めから、『取引』などと言って私を油断させ、背中からだまし討ちにする腹づもりなんだろう。そのために昨日も、仲間のスタンリーを待機させていた」
「知りませんよ! 俺は……」
「なぜそう言える? 君には昨日の記憶がないはずだ」
「ですが、少なくとも今日の俺には、そんなつもりはありません」
「昨日の君と今日の君――。同じ状況において、違う考えを持つなんてことがありえるのかね? バックアップとオリジナルで、性格や思考パターンが違う。そんなことが」
「それは……」
「強いて言えば、今日の君にはもう仲間がいない、という点が違う。しかしどちらにしろ、君の本心に変わりはないさ。あえて自分の不利になる秘密を打ち明けたのも、つまりそういうことだ」
「ダン、俺は……」
「黙れ」
ダンは聞く耳を持たない。
「今日こそは騙されない。これは、昨日の私から今日の私への警告なんだ。私はそれに従う。そして違う結末で今日を終え、別の明日を迎えるのだ」
ダンは手にした銃を見せつけるかのように少し持ち上げ、不敵な笑みを浮かべた。
「まあそういうわけだから、せっかくの提案は辞退させていただきたいね」




