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バックアップの男  作者: 桜井あんじ
警察局捜査官連続殺害事件捜査報告書
100/137

31

★今日 午前八時 (ファイル番号31)



――私は、しくじったのか?

 歯がみをしながら、ベッドの上に体を起こす。

「急に動かないで下さい! ゆっくりと……」

「大丈夫だ」

 慌てて体を支えようとした看護師を不機嫌に突っぱね、私はベッドの周りに居並ぶスタッフを見回した。

「誰か、状況報告をしろ」


 今ここにいる私は、「昨日の私」だ。昨日の朝のバックアップから復元されたので、それ以降の記憶はない。

 昨夜遅く、たまたま訪ねてきたアパートの隣人が、私の死体を発見した。心臓を一発で撃ち抜かれていたそうだ。そしてランドルフもまた、ダウンタウンにある自宅近くの路上で、射殺死体となって発見された。使われた銃がMー458スペシャルだったことから、私がやったのだと分かる。

――と、いうことは。やはり私は、またしてもしくじったのだ。

 昨日のランドルフは一昨日と同じように、私が情報漏洩の真犯人だと突き止めたに違いない。そして私は脅迫され、再びランドルフを殺すことになったのだ。

 だが昨日は、一昨日と違っていた点が一つある。それは、ランドルフを殺した後で私も、何者かに殺されたという事実だ。つまり私たち二人以外に誰か、この件に関わる人物がいたのだ。

――そう。昨日のランドルフには、仲間がいた。

 状況から考えると、こうだ。昨夜私は一昨日と同じようにランドルフを始末し、発見されやすいように死体をダウンタウンに運んで放置した。だがそれを、ランドルフの仲間がどこかで見張っていたのだ。一昨日は、恐喝の役目を果たすはずのランドルフがあっさり殺されてしまったので、今度は自ら動いたに違いない。そいつは私を家までつけてきて、脅迫した。ランドルフが殺されたのをこれ幸いとばかりに、金を独り占めしようとしたのだろう。しかし私は要求に応じず、争いになった……。

――まったく、思いがけない伏兵がいたものだ。

 スタンリーの端末に偽装した証拠を仕込み、後はそれをランドルフに発見させれば、全てうまくいくと思っていた。だが一昨日も昨日も、ランドルフは真犯人を見抜いてしまったのだ。理由は謎のままだったが――、ようやく分かった。このランドルフの仲間が、入れ知恵をしたのだ。そして二人して、私を恐喝する計画を立てた。

だが、今日こそは……。

「仕事に戻る」

 私は看護師にそう告げて、ベッドから這い出した。窓から差し込む「今日」の朝日の眩しさに、思わず目を細める。

 そう。もう一度、「今日」をやり直すのだ。そして今度こそ違う結末で一日を終え、「明日」へと進む。……私だけが。

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