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第8話 樹竜

「退避だ! 逃げろ!」

「呪いに触れると終わりだぞ! 気をつけろ!」


 アレクセイたちと出会った場所に戻ると、目を覚ました樹竜が暴れだし、森を破壊していた。

 木々は倒され、ばら撒かれた呪いで腐食が進む。

 何人かの騎士も呪いを受けたようで倒れている。早く対処しなければ……!


「呪炎花を使うぞ! 樹竜の動きを封じていてくれ!」

「了解!」

「樹竜に直接触っちゃだめ! 私たちに任せて!」


 物理攻撃で押さえ込もうとしていたセラとエメルを止める。

 今の樹竜は触れただけで呪われてしまう。


「もう一度スタンを……! ……ダメだわ、かからない!」


 動きを止めようとしたが、失敗だ。

 アレクセイの攻撃で体力が減っていたため、今の樹竜は興奮状態にあるのかもしれない。

 そうなるとスタンの成功確率も下がる。なんとか鎮めないと……。


「リヒト君! 光の魔法で浄化と回復をしてみて!」

「分かりました!」


 私も使うことができるが、光の勇者であるリヒト君の魔法の方が効果的だろう。


「あ……」


 誰かの驚いている声が聞こえた。

 リヒト君が魔法を行使すると、暴れていた樹竜が段々と大人しくなっていった。


「マリアベルさんのスタンもすごかったが、この光魔法は……」


 セラがリヒト君の魔法に驚いている。

 彼女だけではなく、見ていた者は皆リヒト君の魔法に目を奪われた。

 リヒト君が使う光の魔法は威力が凄いだけではなく、とても神聖なものだと感じる。

 大神官様の魔法も同じように感じたけれど、やはりリヒト君は別格だ。


「さすがはリヒト君! これならスタンも…………よし、効いた! 今よ!」


 私の合図でアレクセイがとってきた呪炎花を樹竜の口の中に放り込んだ。

 すると樹竜の身体が燃え上がり、樹竜の身体を覆っていた呪いがぼとぼとと解けるように落ちていった。


 しばらくすると、長い胴に葉の鱗をまとった、樹木でできた蛇のような竜が姿を現した。

 これが樹竜の本来の姿だ。


「呪いが解けたんですね!」

「まだよ! 完全に解けていないわ!」


 樹竜は、葉の鱗に覆われて隠れている蕾に花が咲いて完全な姿となる。

 だが花が一向に咲かない。

 ゲームでは呪炎花を一つ使えば、もとの樹竜に戻ったのに……。


「どうしてかしら……ん?」


 樹竜を注視していたら、呪いの中に闇の精霊の気配があることに気がついた。

 闇の精霊の力で呪いが解けにくいのだろうか。

 呪炎花の炎がもっと強ければ、呪いを燃やしきることができるのかもしれないが……。


「マリアさん! 樹竜からまた黒いものが!」


 残っている呪いは強力で、完全に解呪しないかぎりすぐに悪化してしまう。

 しかも悪化のスピードが速い。


「このままだとまた暴れだす! 何か方法はないのか!」

「もう少し呪炎花があったら完璧に呪いを取り除くことができると思うけれど……」

「この様子だと、取りに行っている時間はない! 殺すしかないのか!」

「僕に任せてください!」


 リヒト君がそう言って手にしたのは、光の勇者である証。

 私と同じ名前を与えられた大精霊の武器『マリアベル』だ。


「それは……!」


 アレクセイが『マリアベル』を見て目を見開く。

 そうか、大精霊の武器なら呪いだけを消すことができるかもしれない!

 呪いは闇属性。

 対となる光属性には弱いので『マリアベル』なら効果は絶大だろう。

 でも……リヒト君はまだ、大精霊の武器を使いこなせてはいない。

 大きすぎる力を制御できず、リヒト君が怪我をしてしまうことがあったので、本番の戦闘にはまだ使わずにいるのだ。


「リヒト君!」


 リヒト君は目が合うと、心配する私を安心させるように微笑んだ。


「大丈夫です。使いこなしてみせます!」

「……うん!」


 リヒト君ならきっと大丈夫。リヒト君を信じよう。


「……あっ!」

「グオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 リヒト君の動きを察知したのか、樹竜が勢いよく暴れだした。

 そして巨体を恐るべきスピードで動かし、真っ直ぐ私の方へ突っ込んできた。


「マリアさんは僕が守ります!」


 リヒト君がマリアベルに光を宿し、樹竜に向かって素早く掛けだした。


「リヒト君……!」


 凜々しい横顔が格好良くてどきりとする。

 ああ、今のリヒト君はまさしく光の勇者様だ。

 強い光を放った『マリアベル』をふりあげる。そして――。


「呪いよ、消え去れ!」


 樹竜の体を一閃した。

 すると樹竜の体は傷つくことなく、残っていた呪いだけが斬りはらわれた。

 樹竜の身体が白い光に包まれる。


「あ」


 樹竜の鱗に、ひとつ、またひとつと花が咲き始めた。

 それと同時に呪いによって腐食していた大地が元の姿を取り戻していった。


「や、やった……やったぞ! 魔物を倒した!」

「違う! 樹竜を救ったんだ!」


「わああああ」という騎士たちの歓声が響いた。


 はあああっ、よかったー!

 ゲームの通りにいかなくてひやひやしたけれど、樹竜を救うことができた。

 今頃呪いを浴びてしまっていた人たちも皆元の姿を取り戻しているだろう。


「綺麗な花ですね」

「そうね」


 樹竜に咲いた花を眺めながら、リヒト君が微笑んだ。

 君が咲かせた花だから、お姉さんの目には一層輝いて見えるよ!

 リヒト君自身の方がキラッキラに輝いているけれどね!


 樹竜はリヒト君に感謝するように花吹雪を吹かせると、空気に溶けるようにスッと消えていった。

 日本で見た桜吹雪のようで、とても美しかった。


「その武器……光の大精霊の武器か」


 ざわざわと周囲が騒々しくなる中、アレクセイがやってきた。


「只者ではないと思っていたが……君は光の勇者なのだな」

「はい。実は……炎の勇者であるあなたに、お話があって会いにきたんです」

「……聞かせてもらおう」 


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