第34話 懺悔
前世の私は、『最低な母親』だった。
夫への不満、自己嫌悪から来るストレスを全て我が子にぶつけてしまっていた。
才能があり、多くの人の目を惹く次男とは違い、どれだけ成果を上げても目立たない長男――理人。
あの子は私にそっくりだった。
言いたいことをうまく言えず、頑張ることしか出来ない不器用な子。
まるで自分を見ているようで苦しかった。
気がつけばあの子を傷つけるようなことばかりしていた。
私がこんな酷い母親だから、神様があの子を隠してしまったのだろうか。
家族で遊びに行った遊園地であの子が消えた。
一人で待っているはずのベンチから姿を消したのだ。
いくら探しても見つからなかった。
そしてあの子は、何年経っても帰ってはこなかった――。
理人の顔が見たくて、貯めていたアルバムを何度も出した。
生まれる前、胎児のエコー写真から始まるアルバム。
あの子を授かった時の気持ちが蘇る。
……本当に嬉しかった。
『私のところにきてくれてありがとう。私をお母さんにしてくれてありがとう』
毎日たくさん話しかけ、あんなに待ち望んで生まれてきてくれた大切な我が子に、どうしてあんなに辛く当たってしまったのか……。
「ごめんね、理人。お母さんに謝るチャンスを頂戴……お願いだから帰って来て……」
秀人だけが大事だったんじゃない。
同じように大事で、愛していると伝えたかった。
私の光だった。
でも、その願いは叶わなかった。
それが私に与えられた罰なのだろう。
私の願いは叶わなくてもいい。
でも、もし理人がどこかで生きているのなら――。
笑顔で幸せに暮らしていて欲しいと願う。
「まさか生まれ変わってから、願いが叶っていると知ることになるとは……」
二度目の人生で私は男になった。
母親になる資格がないからか、と腑に落ちた。
生まれ変わって漸く出会えた息子は、とても楽しそうで生き生きとしていた。
あんな笑顔を見たのはいつだったか――。
いつからかあの子は俯いてばかりいたのに……。
そうさせていたのは紛れもなく私だった。
そして今、あの子を輝かせているのは共に過ごしている仲間。
「良い人と出会えてよかったね」
今のあの子に、私は必要ない。
名乗り出る資格もない。
でも、いつか――。
私にもあの子の力になれるチャンスが巡ってきたら、力を尽くそうと思う。
勇者だなんて心配だが……。
あの子には自由に、彼女と一緒に羽ばたいていて欲しいと思う。




