第7話
少女はカゴを投げ出し泡を吹いてその場に倒れる。
そして一つ目小僧はくるりと少女に背を向け森の中を走り出した。
渡邉さんの命令通りに逃げることにしたらしい。
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間も無く一つ目小僧達は息を切らせてダンジョンに戻って来た。
「はあ、はあ……驚きました……」
「いや……こんなに人間と早く遭遇するとはな」
「近くに人間の住む集落があるのかもしれないね」
確かに、先ほどの少女はかなりの軽装だった。日帰りで薬草の採集にでも来たのだろうか。
「1番恐るべきはさっきの女の子が一つ目小僧の事を誰かに話した時だね」
「ああ、おかしな生き物がいるってなったら駆逐か捕獲か分からんが人が攻めてくることは間違いないな」
「何か対策を考えないとね……」
【32日目 サンパス村】
ここは仲村達の住むダンジョンから南に1.5キロ行ったところにある小さな村。
サンパス村と呼ばれるその村は人口100人ほどの小さな村だ。
その村に住む1人の少女が涙目で大声を張り上げていた。
「本当だよ!この目で見たんだよ!」
「はいはい。わかったから畑仕事を手伝ってちょうだい」
「しんじてないでしょーーー!」
少女はほおを大きく膨らませる。この少女は他でもないガンと遭遇した少女だ。
「ママのバカ! もう知らない!」
「待ちなさい! ユリア!」
少女の名前はユリア。まだ13歳になったばかりの子供である。
●○
「なんで信じてくれないの! 狼少年じゃあるまいし」
ブツブツとそう言いながらユリアは村はずれの巨木の元へと向かう。
そして巨木の下へとたどり着くとユリアは腰へと手を当てて木の上に向かって叫んだ。
「スティーン! クリス!梯子をおろして!」
数秒後木の上から声が降ってくる。
「合言葉を言え!」
「モヤ爺の耳は豚の耳!」
「よし!」
木の上から梯子が降りて来た。
ユリアは数度それを引くと手をかけて登り始めた。
十数メートル登ると木の枝にくくりつけられた丸太の床が見えた。
ここはユリア達の秘密基地だ。
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秘密基地には2人の男が待っていた。
「ユリア、どうした? 随分と不機嫌そうだが」
話しかけて来たのは黒髪の男。彫りの深い2枚目の男だ。
「ふん! どうせ2人も私のいうことなんて信じてくれないんでしょ!」
「くっくっく……幼馴染の俺たちに対して随分な言い草じゃねーか」
むくれるユリアに毒のある声を言葉をかけるメガネの男。不健康そうな肌にくすんだ金色の髪が印象的だ。
「俺たちを信じてくれ。何があったんだ?」
「うん……実はね……」
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「目玉が1つの子供?」
「うん……」
「くっくっく。聞いたことがねー話だな。幻覚系のモンスターに惑わされたんじゃねーか?」
「いや、新種のモンスターって線もある」
2人の男は眉をひそめてあらゆる可能性を考え出す。
「信じてくれるんだね……」
「当たり前だろ? 俺たちは仲間なんだから」
黒髪の男にそう言われてユリアは頬を赤く染めた。
「くっくっく。ここでいくら話しても机上の空論だぜぇ。久々にあれ行くか」
メガネの男がニヤニヤとしながらそう言うと後の2人も口角を釣り上げた。
「もちろんだ」
「『冒険者ごっこ』だね!」
【32日目 ダンジョンルーム】
ダンジョンの開放から2日が経った。一つ目小僧達はダンジョン周辺を探索し続け、ついに南に1.5キロの場所に村があるのを見つけた。近いうちに行ってみようかと思っている。
それと俺と渡邉さんはスクロールで『言語(100DP)』を習得した。なんでもこの世界で最も多く使われている『ランドール語』を習得できたらしい。
で、俺たちにとって最も重要な問題の1つ。それは2日前の人間との遭遇だ。
あれ以来人間の姿はないが近いうちに誰かが探索にくるのではないかと渡邉さんは疑っている。
まだここがダンジョンだと明かすには早い。もう少し外の世界のことについて調べる必要がある。
渡邉さんは一時的にそれをごまかす方法を考えてくれている。
【33日目 ダンジョン】
「仲村君! いい作戦思いついちゃった!」
「本当に!?」
「うん、題して『姫さまをおたすけくだされ作戦!』」
【33日目 サンパス村北】
私はユリア。サンパス村に住む村娘だ。
私は3日前、薬草を取りに村の北にある『トーランデの林』に行った。
そこで出くわしたのは1つ目の子供。私はそれを見た瞬間失神してしまった。
そのことを幼馴染のスティーンとクリスに話すと2人は私の話を信じて、3人でトーランデの林の探索に行くことになった。
私達はトーランデの林によく冒険者ごっこっと称して遊びに行っている。
その経験を生かすのだ。
トーランデの林は魔物の生息しない安全な場所であるが、万が一に備えて(後雰囲気づくりのために)武装している。
黒髪のスティーンは手作りの木刀をてにもっている。色白金髪のクリスはおばあさんの魔法の杖をこっそり持って来たらしい。クリスは魔法を使えないが。
私は畑に置いてあった鎌を持って来た。こけおどしくらいにはなれば良いのだけど。
二時間ほど探索を続けたが1つ目の子供どころか猫1匹現れない。
諦めかけたその時。
「なんだありゃ」
クリスが指差す先にはぽっかりと空いた洞窟。今まで一度も見たことがないものだった。
木と草に覆われた洞窟の中は深い闇に覆われている。
そして何より目を引いたのは、洞窟のそばに立ち驚いたような顔をしてこちらを見つめる2人の男女だった。