第3話
モンスター選択画面から1つ目小僧を選択する。
『1つ目小僧を本当に召喚しますか?』
「はいよ」
ダンジョンコアの確認に応答する。
その瞬間、ダンジョンコアから光のつぶつぶが飛び出してきた。うわ、綺麗。
狭い部屋の中心に光が集まっていく。
徐々に光が弱まるとともに人の形にまとまっていった。
「おおー……」
「わぁ〜っ!」
俺と渡邉さんはその光景に目を丸くする。
現れたのは8歳くらいの小坊主。丸刈りの頭に白衣と腰衣。なんと言うか一休さんみたいな見た目だな。
そしてやはり異様なのはその顔。大きな目玉が顔の真ん中に1つだけ付いていた。
漫画やアニメの世界と違って実際に目にするとものすごく怖い。
「これが1つ目小僧……初めて見た」
渡邉さんは口を覆った。
そりゃ初めてだろ。結構見慣れてるとか言われても困る。
「………………………」
1つ目小僧はその目線を宙に浮かべたままピクリとも動かない。
「これって生きてるのか?」
思わず口から溢れる。
それほどまでに1つ目小僧は静かに佇んでいた。
『命令をしなければ動きません』
ダンジョンコアがオレンジ色に光る。
「えー!そんなロボットみたいな感じなの!?」
渡邉さんが口を尖らせた。
『ネームドモンスターにすれば意志を持ちます』
「ネームドモンスター?」
『はい。ダンジョンの階層の分だけネームドモンスターを決定することができます。
ネームドモンスターにすると意志を持つことに加え、DPを支払えば死んでも蘇らせることができます』
「へぇ、便利な機能だな」
「1つ目小僧とお話しして見たいなー」
「せっかく復活できるんならもっと強い妖怪をネームドモンスターにした方が良いのか?」
『復活には新たなモンスターを召喚する時と同等のDPがかかります』
「なら別に強くても弱くても関係ないか」
渡邉さんが鼻息をふんふん言わせている。
「名前、つけるか」
「いやったーー!」
渡邉さんは小躍りしながら一つ目小僧に近づく。
そしてひとしきり眺め回した後、満面の笑みで言った。
「じゃあこの子の名前は『眼球』で」
「ええええええええ!?」
『ええええええええ!?』
●○
渡邉さんのゴミみたいなネーミングセンスに驚いた後、何とか説得する。
「んー?そんなに変かな。特徴捉えてると思うけど」
「捉えりゃいいってものじゃないと思うわ」
説得の結果1つ目小僧の名前は『ガン』になった。
『1つ目小僧(1)をネームドモンスターに登録しました』
ダンジョンコアがそう言った瞬間、1つ目小僧がパチリと瞬きをした。
「お初にお目にかかります。本日よりこちらでお世話になる一つ目小僧の『ガン』です。よろしくお願いいたします」
一つ目小僧は流暢にそう言うとその場に正座をして頭を下げた。
「おお、めっちゃ礼儀正しいな」
「お褒めに預かり光栄です」
「すごーい!本当に動いてる!」
「あはは、渡邉様そんなにはしゃがないで……」
「すごーいすごーいすごーい!」
「ちょ、ちょっと! 目はやめてください!」
渡邉さんのボルテージはマックスだ。
「ところでダンジョンコア。1つ目小僧ってどのくらい強いんだ?」
『抽象的な質問で回答しかねますが……メニュー画面からダンジョンモンスターのステータスを確認することができます』
ステータスってゲームとかでよく出てるあれか。
「うはははは!夢見たい!」
「うわぁーーー!助けてください!」
キャラ崩壊している渡邉さんを横目に俺は1つ目小僧のステータスを確認した。
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名前 ガン
種族 1つ目小僧
レベル1
体力75/75
魔力5/5
知力123
筋力65
速力55
運102
スキル
『威圧』
敵を睨むことで敵の闘争心を萎縮させる。
『棒術lv2』
棒を使って戦闘を行える。
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「比較対象がないからどれくらい強いのかわかんないけど……」
『この世界の成人の平均が100になるように計算されています』
「なるほど。じゃあ普通の人間より弱いって感じか」
『はい。スキルを使えば勝ち目が出てきますが……いえ、希望的観測ですね』
俺はダンジョンコアに尋ねる。
「スキルはどうやったら手に入るんだっけ?」
『スクロールを使います。モンスターに読ませれば対象のスキルを獲得できます。ダンジョンマスターも使用できますよ』
俺はアイテム欄からスクロールを探す。
『ガンが使用できるスクロールをリストアップしました』
俺の目の前に別のメニュー画面が展開される。
「ありがとう」
俺はダンジョンコアに礼を言って目を落とした。
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剣術lv1
柔術lv1
弓術lv1
槍術lv1
薙刀術lv1
鎖鎌術lv1
捕手術lv1
保縄術lv1
棒術lv3
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『今のレベルではこれが限界です。全て100DPで獲得可能ですが『棒術lv3』のみ400DPかかります』
「レベルによって練度は違うのか?」
『レベルはマックスで10までです。レベル8を越えればまあ最強ですがレベル2はそこそこだと思ってください』
「んー、じゃあ『棒術lv3』買うか」
『もちろん棒も必要ですよ』
「そうだったな」
先ほどの表示画面が切り替わる。購入できる棒を表示したらしい。
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柏木棒
樫木棒
八角棒
乳切棒
鉄棒
金棒
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「何が良いのか全然分からん……」
『長押しすれば特性が表示されますよ』
「おお、本当だ」
5分ほど吟味したあと俺は300DPの柏木棒を購入した。
○●
「なんという幸せでしょう!ありがとうございます!」
渡邉さんを引き剥がし、『棒術lv3』のスクロールと柏木棒をガンに渡す。
ガンは棒を振り回して喜んだ。
ガンがスクロールを読むとスクロールは燃えてしまった。使い捨てらしい。
「そういえばダンジョンモンスターは食べ物とか必要なのか?」
『食べることはできますが必要ありません』
「だったらモンスターを増やしても維持費の心配もないってことか」
ステータスを見てわかったが一つ目小僧は弱い。だったら量を揃えておきたいところだ。
俺は新たに9匹の1つ目小僧を召喚した。
皆一様に同じ格好をして丸刈りだが顔立ちに違いがある。
全員のステータスを確認すると『棒術』の他にも『剣術』や『柔術』を習得している奴もいた。それぞれに合った武器を渡す。
あと部屋が狭かったので部屋を増やした。俺たちが今いる部屋と廊下で繋げて広めの部屋を1つ。ここが1つ目小僧たちの待機場所だ。
「言葉を喋らないので不気味ではありますが……仲間が増えて嬉しいです」
ガンが少し苦笑いで言った。
本当に嬉しいのはいうまでもなく渡邉さんだろう。一つ目小僧たちの観察日記をつけ出すくらいだから。