第2話
俺は部活用に持ってきていたタオルを地面に置いた。確か2000円くらいで買ったやつだ。
「えっと……どうやるんだ?」
「ダンジョンコアさん、教えてください」
ダンジョンコアがオレンジ色に光る。
『ダンジョンに物を吸収する時は物を視界に入れつつ「吸収」と口に出すだけで結構です』
「それじゃあ視界に入ってるもの全部吸収しちまわねーか?」
『まあ、ある程度こちらも空気読みますんで』
「あ、ありがとうございます」
ロボットみたいなもんかと思ってたが意外にダンジョンコアはくだけた話し方をした。
俺は早速タオルを視界に入れる。
「吸収」
タオルは地面に解けるように消えていった。
で、
俺は再びメニュー画面を開く。
『メニュー画面の保有DPから履歴を表示できます』
俺はダンジョンコアに言われた通り履歴を表示した。
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0日目8時12分 ダンジョン創造ボーナス10DP
0日目9時8分 フェイスタオル 80DP
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「おお!」
「やった!」
俺たちは手を叩いて喜んだ。
なかなかいい値段なんじゃないか?
「こうなったらどんどんDPに変えちまおう!」
「うん!」
シャープペンシル 360DP
「高い!」
「物の値段とDPは比例関係にないのかな?」
ノート 50DP
「思ったより安いな」
「そうだね」
電子辞書 8600DP
「うおーーーーー!」
「すごっ!」
千円札 30DP
「俺の千円……」
「仲村君、元気出して」
500円玉 250DP
「高っ!」
「やっぱり日本での価値じゃなくてこの世界での価値になるみたいだね」
●○
俺たちは持ち物の大部分をDPに替えた。残っているものは2つだけだった。
1つは俺の部活、ハンドボール部のみんなで作ったオリジナルTシャツ。
背面に高校の名前とハンドボールの絵があしらわれている。さすがにこれは手放せない。
2つ目は渡邉さんの私物。400ページほどの厚さの図鑑だ。表紙には『妖怪大辞典』と書かれてある。
「ナニコレ?」
「えっと……あの……」
俺が尋ねると渡邉さんは目をぐるぐると泳がせた。
「妖怪好きなの?」
「……いや、そんなことはないけど……」
「妖怪辞典を毎日学校に持ってきてるのに」
「……すみません、好きです……」
渡邉さんがしょんぼりとした。
「いや、いいんじゃないか。むしろ個性的で素敵な趣味だと思う」
「……お世辞はいいですよ」
そう言う渡邉さんだったが口角は釣り上がり、顔を赤らめながら体をくねらせていた。
○●
「4万5214DP……」
「いっぱい溜まったね!」
「食事分は余裕そうだし……さっそくモンスターを召喚してみるか」
「うん!」
俺はメニュー画面を開きつつ尋ねる。
「なあ、ダンジョンコア。この世界にはどんな生き物がいるんだ?」
『あなた方の元いた世界にいたような野生動物はほとんどいません。この世界の野生には『魔物』と呼ばれる高い魔力を持った生物が多数存在します』
「ゲームの世界みたいだな」
『逆です。あなた方の世界のゲームがこの異世界をモデルにしているのです』
「え?」
『神の干渉があったのは言うまでもないでしょう』
「じゃあ、ゴブリンとかスライムとかドラゴンとかがこの世界にはいるってことか」
『その通りです』
俺はひとしきりダンジョンコアの話を聞いて頷いた。
「じゃあ、さっそくスライムを召喚してみるか」
「え?あんなもの召喚してなんになるの?」
「え?」
「え?」
俺は最悪の可能性に気づいた。
「渡邉さん、スライムって知ってる」
「もちろん。小学生の時よく作ったよね」
「……ゴブリンは?」
「……お、おいしいよね!」
「オーク」
「そんな木があったような……」
渡邉さんは異世界の知識がなかった。
召喚する生物について俺と渡邉さんの両方が知ってなきゃ召喚できない。これはまずいことになった。
「……とりあえず召喚できる動物を見てみるか」
俺はモンスターの項を開いた。
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オオクロアリ 1DP
トノサマバッタ 5DP
ミニチュアダックスフンド 350DP
ツキノワグマ 4000DP
トキ 300DP
マグロ700DP
タニシ1DP
ホオジロザメ 1万DP
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・
・
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揃いも揃って地球の動物たちだった。
「わーすごーい! ツキノワグマが4000DPだってよ。お得じゃない?」
「ああ……」
元の世界なら相当な強さだろう。だがここは異世界。ゲーム通りの世界なら剣と魔法と世界なのだ。遠距離から攻撃を受けたらいい的にしかならない。
「参ったなぁ……」
俺はサラサラとモンスター一覧を見ていく。
「なんだこりゃ」
元の世界に存在する動物の中に1匹だけ違和感のある名前が。
「1つ目小僧……?」
すると間髪入れずに渡邉さんが俺の横に飛びついてきた。
「1つ目小僧!? 1つ目小僧って言ったよね!」
「う、うん」
「召喚できるの? 召喚できるんだね!」
「自分ので見れるから一回離れて!」
俺のメニュー画面にグイグイ顔を近づける渡邉さんを引き剥がした。
「へぇ〜、仲村君も妖怪知ってるんだね」
「まあ、有名なのだったら」
「えへへ、嬉しいなぁ!」
渡邉さんは食い入るように自分のメニュー画面を見ている。
「あ! ろくろ首もある。のっぺらぼうもいるじゃん! 河童に天狗に……うわぁ口裂け女までいる」
口裂け女は妖怪なのか。
「なあ、ダンジョンコアよ。妖怪って強いのか?」
『種類によります。しかし動物と違って意思疎通ができるので有用かと。ある意味ではゴブリンなどのこちらの世界のモンスターと大差ありません』
「なるほどな……」
だったら妖怪を召喚するしかないか。
俺は改めてメニュー画面に目を落とす。
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1つ目小僧 100DP
ろくろ首 1000DP
河童 500DP
鬼5000DP
のっぺらぼう 1000DP
天狗 1万DP
口裂け女4万DP
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「渡邉さん的にはどれがオススメ?」
鼻歌を歌う渡邉さんに尋ねる。
「この中で1番危険度が高いのは河童かな。その次に天狗とか鬼って感じ。この三体は子供をさらったりするからね。河童に至っては尻子玉ぬくし。口裂け女は言うまでもないよ」
尻子玉ってなんぞや。
「他の3体は人を殺したりってより驚かせるのがメインかな」
「さすが詳しいな」
俺は改めて考え込む。やっぱり強いモンスターは欲しいけど言うこと聞かなかったら怖いしな……。
「とりあえず1つ目小僧を呼び出してみるか」
「うん!」