死能
死能
それは人を死に至らしめるエネルギーを体内に取り込む事で死を防いだ人間に宿る能力の事である。
真昼の都会、すでに授業が始まっている時間に学校の屋上で一人の男子生徒が力無く歩いている。メガネをかけ見るからに真面目な彼はため息を付いて落下防止の鉄格子に触れる。
「ここから飛び降りればどれだけ楽になれるのだろう...」
彼は小さな声で呟き、いつまでも授業をサボる訳には行かないと踵を返してあの忌々しい教室へ戻ろうとした。だが、彼が屋上のドアを開けようとすると、ドアは勝手に開いて今最も会いたくない人物達と鉢合わせしてしまった。
「よう、ダメメガネ」
ボロボロの学ランを羽織り髪を金髪に染めて見るからに不良の彼らはダメメガネと罵った男子に絡み金をたかった。
「今月ピンチなんだ」
「なあ...友達だろ、助けてくれるよねぇ」
「どうせ、勉強ばかりして金使わないんだからいいよな」
もう何度目かも分からなくなったこのやり取りはいつもならメガネの生徒が不良に金を渡して終わるのだが今日は違った。
「もっ、もういい加減にしてください!!、貴方達に渡すお金はありません!!」
メガネの生徒は震える声で強く言うと逃げるように屋上を去ろうとしたが、不良達が逃がすはずもなくメガネの生徒の肩を掴んで振り返らせ顔面に強烈なパンチをくらわせた。
「ううっ!!」
余りの痛さに後退りしたメガネの生徒は顔を押させた手に生暖かい感触を覚えて恐る恐る手を見ると真っ赤な血が付着していた。
「オイ!!、ダメメガネ!!、テメェーいつからそんな口叩ける程偉く成ったんだあ゛?」
メガネの生徒を殴った不良がメガネの生徒の胸ぐらを掴み激しく揺さぶる。
「テメェのような雑魚は黙って俺達に金を渡せばいいんだよ!!」
不良はもう一発メガネの生徒の顔を殴りメガネの生徒はよろけて落下防止の鉄格子に背を打ち付けた。不良はメガネの生徒を無理やり立たせ頭を掴むと鉄格子の外へ顔を押し出す。
「もう一言う、金を渡せ!!」
「い、いやだ!!」
頭を掴む不良にメガネの生徒は必死で抵抗するが当然勝てる訳もなく徐々に体は鉄格子の外へ押しやられる。
「いやなら死ねぇ!!」
怒りに任せて強く押した頭はまるで何かに引っ張られるように倒れていき、少し間をおいて鈍い音が聞こえて恐る恐る下を見るとメガネの生徒が地面に倒れていた。
「え、マジかよ」
「嘘だろ?!」
「俺知らねえからなぁ!!」
三人の不良はそれぞれ今起きた出来事から目を背けるように言うと慌てて屋上から逃げた。
「痛ったいなあぁ...」
メガネの生徒は痛む体を起こして地面にあぐらをかき、何となく上を見る。
「僕はたしか...」
メガネの生徒の頭に不良達とのやり取りが流れて、自分は五階の屋上から落ちた事を思いだす。
「どうして無事なんだ?」
メガネの生徒は体の至るところ全てを調べると、出血どころかアザすら出来てないことに驚く、そして自分の中に流れる未知のエネルギーがあることに気づいた。そして彼は右手に未知のエネルギーを集めて校舎に触れると壁が大破し大穴が空いた。
突然の爆発音に教師や生徒が驚いた表情でメガネの生徒とその前に出来た大穴を見て何か言っているが、メガネの生徒は自分の身に宿った力に酔いしれた。
「これで、奴らに復讐出来る」
薄暗く、コンクリートの壁で出来た部屋の中で天気予報を流していたテレビが突如切り替わり女性のアナウンサーが緊迫した雰囲気で現れた。
「突然ですが臨時ニュースをお伝えします
今日午後零時半過ぎに中村高校にて死能者と見られられる男子生徒が同級生を相次いで殺害し立て籠った模様です」
「ん?」
テレビで流れた臨時ニュースを真剣に聞いた十六才程で左目に傷をもった白髪の少年は素早く、戦闘用の黒い迷彩服に着替えてコンクリートの部屋から外へ出る。
白髪の少年は隠れ家のような家を施錠すると狭い路地裏を風のように走り抜けてニュースになっている中村高校へ向かった。
「無駄な抵抗は辞めて生徒を解放しなさ~い、君は完全に包囲されている~、両親が泣いているぞぉ~」
「警官ごときが僕に勝てると思っているのか?」
メガネの生徒は机を片手で持ち上げ、拡声器を持つ警官に投げつけて命中したパトカーは大破した。
「チッ、隠れやがって」
メガネの生徒は教室内にある机や椅子を付き次にパトカーや野次馬どもに投げつけ周りは大混乱に陥った。
「実に爽快だね、僕に楯突くからこうなるんだ!!」
メガネの生徒は真っ黒な笑顔で笑い教室に押し込めている同級生に向き直った。
「さて、次ぎは誰を殺そうかな...君達は僕がアイツらにいじめられていても見てみぬふりしてたよね」
親指で指差しした壁には少し前まで不良だった物がバラバラに張り付いている。
「うっ...」
「おぇ...」
余りにも悲惨な光景に一部の生徒は耐えきれず腹の物床に吐いた。
「警官達も見ての通り僕に手も足も出ない、もう助けは来ないんだよ!!あははははは!!」
生徒たに表情が絶望に染まり誰もが自分も彼らのように殺されるのだと諦めた時、四階だと言うのに窓の下から手がニョキッっと伸びて白髪の少年が教室に入って来た。
「よお新しい同胞よ、君に二つ聞きたいことがある」
白髪の少年はメガネの生徒にそう訪ねると、メガネの生徒は近くの椅子を掴み白髪の少年に向けて投げ椅子は窓をガラスを粉々にし遠くへ飛んでいった。
「僕は無いね」
メガネの生徒は鼻で笑うと警官達が集まる運動場へ視線を向けた。
「やれやれこうも人の話を聞かないとはねえ...これだから力を手に入れたばかりの死能者は嫌いなんだよ」
メガネの生徒は慌てて声の主を探すと壊れた窓の前に白髪の少年は立っていた。
「今のをどうやって避けたんだ!!」
「さっきも言っただろ同胞ってね、死能者は君だけじゃないって事さ」
メガネの生徒が意識を白髪の少年に向けた時、近くの男子生徒が不意をついてメガネの生徒に椅子を叩き付けたが、メガネの生徒は微動だにせず攻撃を受けて男子をお返しにと壁に蹴り飛ばした。
「全く痛くも痒くもありませんね」
「そりゃそうだ、君は衝撃の死能者だからね」
白髪の少年はゆっくりとメガネの生徒に近ずきながら怯える生徒達に向かって話す。
「死能は人を死に至らしめるエネルギーを体内に取り込む事で死を防いだ人間に宿る能力の事だ。
そして死能者は死に至らしめるエネルギーを扱う者をさし、死能者は自分と同属性のエネルギーは余程巨大でない限り吸収し無効化する。
さらに死能者は死能者となる前に比べ身体能力が激しく上昇するため一般人ではほぼ勝てない存在だ。
つまり、一般人の君たち生徒は彼に手を出すなって事さ」
メガネの生徒の前に白髪の少年は立つとメガネの生徒の目を真剣に見つめて一つ質問した。
「君は生きている全ての人間が敵か?」
「そうだ!!」
メガネの生徒は返事と共に白髪の少年に向かってパンチを繰り出すが白髪の少年はあっさりと避けて、一言、「残念」、と呟きメガネの生徒の首に電気を流して気絶させた。
「悪く思うな、衝撃系の死能者は打撃が効かないから少し手荒な方法で眠って貰うよ」
白髪の少年はメガネの生徒を床に寝かせると四階の窓から当たり前のように飛び降りて何処かに消え去った。
「カッコイイ...」
誰かがそう呟くと主に女子生徒が相槌を打った。
その後メガネの生徒は警官に取り押さえられて死能者が集められる研究施設、日本死能研究機関、通称日死研に護送される事となる。
「キラ君、あれが今回捕まった同胞だね」
ビルの屋上から双眼鏡で道路を走る護送車を見ていた桃色の髪で淡い緑の瞳の少女が背後で寝転んでいる黒髪で黒い瞳の少年に話しかける。
「そうだねシーラ、聞いた話によると能力は衝撃らしい」
キラは立ち上がり服についた埃を払うと屋上から飛び降りて別のビルの屋上に着地すると護送車めがけてビルや家の屋根を跳び移って行く。
「ちょ、ちょとまってよぉ~」
シーラもキラの後を追うように跳び移っり護送車を目指した。
メガネの生徒を乗せた護送車の一団は突然前に現れた黒髪の少年と桃色の髪の少女に急ブレーキを踏んで止まると、護衛の警官が車から降りて二人に拳銃を向ける。
「貴様ら何者だ!!」
「そんなこと言って、もう分かってるんだろ?俺たちは同胞を救いに来ただけだ」
キラはそう言って護送車にに歩いて近ずくと二人を攻撃対象と判断した警官が発泡し銃弾が二人を襲うがキラ達は当然の事のように全ての弾を避ける。
「ただの銃弾じゃ、遅すぎて俺たちのような上位の死能者には当たらないよ」
キラは地面を強く蹴るとまるで地震が起こった用に周りが揺れだし激しい揺れによって車同士がぶつかり炎上する。
「キラ君、やり過ぎよ!!、これじゃ彼死んじゃったんじゃない?」
心配そうなシーラを横目にキラ感情のこもって無い声で一言言った。
「これで死ぬなら組織に要らない」
「それもそうね」
キラの一言で納得したのかシーラは燃える護送車を見る、すると突然護送車が何かに衝突したかのように道路脇へぶっ飛び道路の真ん中でボロボロの制服をきたメガネの生徒がゆっくり立ち上がった。
「痛ってぇ痛ってぇぞおコノヤロウがぁ!!」
メガネの生徒は近くのパトカーをキラに向けて飛ばすがキラは地面から壁をせりださせて防ぐと、メガホンの生徒は自らの手でキラを殺そうと走った。
だがキラまるで赤子を相手にするようにメガネの生徒をボコボコにし立ち上がる気力もない彼に問いかける。
「人間が憎いか?」
「憎い!!」
「なら俺と一緒に来い、世界をひっくり返えそうじゃないか、我々死能者の手によって」
キラはメガネの生徒に手を伸ばし、メガネの生徒はキラから差し出された手を握り返して立ち上がった。
「俺の名はキラ、死能者の武力組織、【怨念】の頭だ」
「臨時ニュースをお伝えします、今日中村高校で多数の生徒を殺害した死能者と見られる少年を日本死能者研究機関に護送中、死能者の武力組織【怨念】と見られる二人組によって少年を奪われました、繰り返します、【怨念】と見られる二人組によって少年を奪われました」
薄暗い部屋のなかで死能者を奪われた事を報道するニュースを見た白髪の少年は小さなため息をつくとテレビを消した。
「キラ...お前は人間を本気で滅ぼす気なのか...」
白髪の少年はベッドに横になり天井を見上げ、大好きだった青い髪の少女、ユキの最後に言った言葉を思い出した。
「シュウ、もうあの子達には伝わらないけど、あなただけは人間達を見捨てないであげてね...」
「キラ...亡きユキのためにも全人類を滅ぼそうとするお前の行動は邪魔させて貰うぜ」
シュウはベッドから起きてパソコンの電源をつけるとまた死能者による事件のテロップが流れ、死能者の人間殺害を防ぐべくシュウは再び現場へ向かったのであった。
読んで下さりありがとうございます。