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コレはワタシのモンダイなの!?  作者: 荒木テル・ダッチャブル
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プロローグ I am Japanese!?~帰国~

 空は晴天。

 機体は雲間を抜け、ゆっくりと着陸態勢に入る。

「夏海、もう着くわよ。起きなさい」

 一人の女性が周りを気遣うような囁き声で傍らの娘を起こしている。

「…何、ママ?」

「ほら、さっさと降りるわよ!」

 ようやく目覚めた少女は、眠い目を擦りつつ、飛行機に乗ってからずっと抱いていたクマのぬいぐるみを拾い上げてから母の後をヨロヨロとついていく。彼女たちが降り立った場所は日本―そう夏海は十三年ぶりに故郷に帰ってきたのだ。今まで海外を転々してきた夏海だが、この春から以前から憧れていた日本で高校生活を送ることとなった。

「覚えてる、夏海? ここであなたは生まれたのよ」

「ここが『ニッポン』?」

「そうよ。 あなたが三歳まで住んでたところよ」

「…」

「どうしたの?」

 夏海の目に飛び込んできたのは黒山の人だかり。しかもそれがウジャウジャと犇めき合い、蠢いている。

「なんか怖いわ…ママ」

「何言ってんのよ。向こうの空港にだってこれぐらい人は居たでしょ…?」

「だって…」

 夏海は俯くと、それ以上は何も言わなかった。

「あなた昨日までは、あんな楽しみにしてたじゃない? ハァ~、分かったわよ。本当は近くの遊園地で少し遊んでから、パパのアパートに向かおうって思ってたけど、あなた、やっぱり人混みが苦手みたいね…お寿司でも買って帰りましょう」

母・楓は不安に満ちた娘の肩を優しく抱き、アパートへと歩を進めた、


 アパートは空港から五キロほど離れたところにあり、外観は七階建ての落ちついた淡いクリーム色で統一されている。いかにもモダンで可愛らしい造りだ。夏海と母はエレベーターで三階まで上がり、三〇五号室の鍵を開けた。

「パパ~、居るんでしょう?」

 娘の声を聞き、慌てて顔を覗かせる父。

「オォ~、ナツミ! ヤットキタネ!」

父・ニックは夏海たちより二日前にオーストラリアを発ち、引っ越しの手伝いをしていたのだ。突然の日本語での歓迎に戸惑いつつも、一人そそくさと玄関を上がり、辺りを走り回る。内装はというと、部屋全体が白で統一され、いささか殺風景である。

「まだまだ子供ね」

「ダネ!」

夏海は外観とのギャップに驚き、がっかりした様子で玄関に戻ってきた。

「さぁ、引っ越し屋さんが来るのも明日までなのに、まだ荷物半分以上も残ってるみたいだから、三人でやれるとこまでやっちゃうわよ!」

「オー!」

 ニックが楓に答える。夏海もその後に続き、弱々しく手を挙げた。

 

 夕日が沈んだ頃には三人は作業を終え、食事を楽しんでいた。話題はもちろん、明日から始まる夏海の高校生活についてだ。

「夏海、明日の入学式は楽しみかい?」

 正面に座るニックが尋ねると、夏海は少し口ごもった。

「あなた学校好きでしょう?」

「でも、ここはニッポンよ…」

楓の問いに伏し目がちに答える。

「そりゃ、少しは楽しみだわ。自分が生まれたところがどんな場所で、どんな生活をしてたのか思い出したいし…でも時々、嫌なことを思い出しちゃうんだもの」

「昔は昔よ。確かに長くあっちに居たから余計不安に感じるかもしれないけど、もう夏海も高校生になるんだし、これからが一番楽しい時期なんだから! もっと肩の力を抜きなさいよ」

「ソウダヨ!」

 不安そうに呟く夏海に楓が優しく返し、ニックもそれに同意する。夏海はうん、と小さく頷き、再び箸を進めた。

 その夜、夏海は母と一緒に日本語の勉強をしていた。明日の学校での自己紹介をするためだ。しかし、実は今までに覚えた日本語は『オハヨウ』と『ニッポン』、『オスシ』の三つだけである。というのも、夏海には日本語の意味は何となく理解できるが、発音がどうも上手くできないのだ。

「次は、これよ」

「まだやるの?」

ふと、楓が時計を見る。気付けばその特訓は三時間ほど続いていた。

「仕方ないわね~…いつもよりちょっと早いけど、今日はもう寝なさい」

 夏海は布団に入ってからもしばらくの間、今、教わったばかりの単語を繰り返し発音していた。なんだかんだ言ってやる気はあるようだ。

「夏海、明日は頑張ってね!」

 夏海は、母の言葉に精一杯の日本語で返した。

「ウン、ガンバル!」

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