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…須藤さくら、14歳。
美術部の部長であり、美術のセンスは抜群。
幼少の頃から数多のコンクールで賞を取り続けてきた、いわば天才というものだ。
俺も一応美術教師の端くれなので、それくらいは知っている。
なんの才能もない俺と、絶対的王者の位置に属する須藤。その差は歴然だった。
『っとまぁこんな感じで、これからよろしくな。では解散。』
部活動についての説明は簡潔に済ませた。きっと2、3年生は今まで通りうまくやっていくだろう。
ふと須藤を見やる。彼女は頬杖をつき、窓の外をぼうっと見ていた。
『おーい、解散だぞー。』
黒い真珠のような大きい瞳が、こっちをジッと睨む。いや、怖ぇよ。
「あっそ。」と吐き捨てたような返事が返ってくる。
つっけんどんな彼女の言葉をどう返そうかと悩んでいるうちに、また彼女はトゲを纏わせた言葉を俺に放ってくる。
「用がないならどっか行ってください。邪魔。」
…全く、なんて生徒だ!
引きつらせた『あ、あぁ。』を返し、思わずくるりと身を翻し美術室から出る。
ドアを閉める刹那、彼女の横顔がちらりと見えた。
…それでも彼女は、美しい。
他の生徒には感じられない何かを、彼女は醸し出していた。
どこか冷たそうでけれどほのかに温かみを感じる。
俺が彼女に興味をもっていないといえば、それは嘘になる。
恋愛感情というわけではない。ただ、彼女という存在がどのようにしてできたのかに、興味があった。
そして、彼女が描く絵にも。
彼女の絵は、人を惹きつける何かがあった。
何かは俺にはわからない。説明をしようにも、言葉が見つからない。
それだけ、彼女の絵には力があった。
職員室に戻るふりをして、俺は美術室の壁に体をくっつけて、息をひそめる。
教師としてはあるまじき行為だが、相仕方ない。
ちらりと見やると、彼女は部員と楽しそうに談笑していた。
俺へ対する態度とは真逆に、感情をあらわにして喋る彼女が、嘘みたいだった。
ああ、やっぱり彼女は中学生だ。
と思った時だった。
喋っていた彼女の目線が、俺の方を向いた。
とっさに横にずれたので、彼女は気づいてないはず…
だと思った。
ふいにドアが開き、彼女の氷のような目線がこちらを向く。
またやらかしてしまったな。
謎の中腰の体勢のまま、俺は唱える。
…負けるな、梶原!