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スミレ  作者: 七瀬 海亜
4/5

…須藤さくら、14歳。

美術部の部長であり、美術のセンスは抜群。

幼少の頃から数多のコンクールで賞を取り続けてきた、いわば天才というものだ。

俺も一応美術教師の端くれなので、それくらいは知っている。

なんの才能もない俺と、絶対的王者の位置に属する須藤。その差は歴然だった。


『っとまぁこんな感じで、これからよろしくな。では解散。』

部活動についての説明は簡潔に済ませた。きっと2、3年生は今まで通りうまくやっていくだろう。

ふと須藤を見やる。彼女は頬杖をつき、窓の外をぼうっと見ていた。

『おーい、解散だぞー。』


黒い真珠のような大きい瞳が、こっちをジッと睨む。いや、怖ぇよ。

「あっそ。」と吐き捨てたような返事が返ってくる。


つっけんどんな彼女の言葉をどう返そうかと悩んでいるうちに、また彼女はトゲを纏わせた言葉を俺に放ってくる。

「用がないならどっか行ってください。邪魔。」



…全く、なんて生徒だ!

引きつらせた『あ、あぁ。』を返し、思わずくるりと身を翻し美術室から出る。


ドアを閉める刹那、彼女の横顔がちらりと見えた。

…それでも彼女は、美しい。


他の生徒には感じられない何かを、彼女は醸し出していた。

どこか冷たそうでけれどほのかに温かみを感じる。


俺が彼女に興味をもっていないといえば、それは嘘になる。

恋愛感情というわけではない。ただ、彼女という存在がどのようにしてできたのかに、興味があった。


そして、彼女が描く絵にも。

彼女の絵は、人を惹きつける何かがあった。

何かは俺にはわからない。説明をしようにも、言葉が見つからない。

それだけ、彼女の絵には力があった。



職員室に戻るふりをして、俺は美術室の壁に体をくっつけて、息をひそめる。

教師としてはあるまじき行為だが、相仕方ない。


ちらりと見やると、彼女は部員と楽しそうに談笑していた。


俺へ対する態度とは真逆に、感情をあらわにして喋る彼女が、嘘みたいだった。

ああ、やっぱり彼女は中学生だ。


と思った時だった。

喋っていた彼女の目線が、俺の方を向いた。

とっさに横にずれたので、彼女は気づいてないはず…


だと思った。

ふいにドアが開き、彼女の氷のような目線がこちらを向く。



またやらかしてしまったな。

謎の中腰の体勢のまま、俺は唱える。

…負けるな、梶原!


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