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雑用やなんやらに追われているうちに、時計は上を指していた。
今頃生徒たちは下校している頃だろう。
「あ、もう12時。」と由利先生が席を立った。
『あれ先生、何か会議でもありましたっけ?』
俺が聞くと、由利先生はクスッと笑った。
「先生、今から部活動の時間ですよ?担当の部に行って挨拶しなきゃ。」
あ、忘れてた。
全く、こんなことまで忘れるなんて俺はどうかしてしまったんだろうか。
「それじゃ、私は吹奏楽の担当なんで。」と、部員表を片手に職員室を出て行った。
では、俺も行こうか。
俺の担当教科は美術。自動的に美術部を任されることになっている。
・・・が、少し心配な点がある。
ここはかなり過疎地域で、教師の数がとても十分とは言えない。
しかも美術などの芸術担当の教師はとても需要が少なく、全国で見ても数が少ない。
かくして、俺は一人で美術部を任されることになった。
まぁそこら辺はなんとかなると思う。
聞いたところ、部長はかなりすごい生徒らしく、幾多もの賞をとる、いわばこの中学校の絶対的エースだと聞いた。
きっとまとめるのもうまいのだろう。
少し離れにある真新しい棟へ足を踏み入れる。
プール、図書室、美術室、音楽室のあるこの棟は、数年前に改築されたそうだ。
数年経ってなおもその新しさは残っている。
入ってすぐに、《美術室》と書いてある教室を見つけた。
少し騒がしい。やっぱり女子生徒ばかりの部は、こんなに五月蝿いのか。
とりあえず自己紹介をしようと、扉を開ける。
するとびっくりした顔と不審そうな顔が混じった表情が、一気にこちらに向けられる。
少々重い空気だが、かまわず黒板の方に向かう。
『初めまして、美術部の担当になった梶谷です。新しくこの中学校に赴任してきました、宜しくお願いします。』
そう言うと少し緊張が解けたのか、生徒たちの表情が柔らかくなっていく。
『早速だが、部員みんなに改めてそれぞれ自己紹介をしてもらおう。部長と副部長、前へ。』
生徒が、苦笑いのような表情を浮かべる。
一人が話す。「私が副部長です。が、部長が・・・・まだ来てなくて。」
と話していると、扉が開いた。生徒たちの顔が一気に扉の方へ向かう。
一人、生徒が入ってきた。
「ちゃーす・・・・誰?」
目をぱちくりさせてこちらを見る。
美術部部長、3年3組の 須藤 さくら。
俺と、彼女の出会いだった。