ー第二章 君が笑ってたからー 【5】
愛音の過去ラストかも。
――陸君とまた会えれば私はもう一度笑顔を取り戻せる?
そう自分に問うと自信のある答えは出てこない。もう自分の笑った顔を忘れた。どうやって笑えば
いいのか分からない。自分が何なのかさえわからないほどに、私は泣くことに疲れていた。
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留学してもう少しで5年ほど。事件は起こった。
お母さんは急に倒れた。悪魔だと思っていた人が倒れた。あの人に向かって、どんな顔をすればい
いのか分からない。私はお父さんに連れられ、お母さんのいる病院へ来た。
そこで見たお母さんは想像を絶するものだった。
お母さんはもう、死にそうなくらい衰弱していた。
自然に笑うことは出来ないけど、愛想笑いは得意。お母さんを元気付けようと、ベッドで寝ている
お母さんに笑いかけた。お母さんは私にこう言った。
愛華「愛音、無理やり留学させてごめんね。留学はいいって聞いてたけど、そうでもないみたい。
だって、あんなにかわいらしい子供の笑顔を奪ってしまったんだからね・・・。」
お母さんは泣いていた。その瞬間、思い出した。留学する前、私にとってお母さんはどんな人だっ
たか。私が陸君に会いたいと言えば、優しい言葉をかけてくれた。そういえば、私と陸君を許婚に
してくれたのは他でもないお母さんだ。私は今まで何てことを思っていたんだろう。そう思ったけ
ど、涙が出てこない。泣きすぎた私にとってその衝撃は形に出来ないものだった。お母さんは私に
こう告げた。
愛華「愛音。あなたの笑顔は誰をも幸せにするの。もしあなたが陸君ともう一度会ったときその時
あなたはずっと笑顔でいてあげて。そうすればきっとあなたも幸せになれる。私はあなたの笑顔が
大好きよ。それを奪ってしまったことをとても後悔してる。出来ることならもう一度見たい。愛
音、私を笑顔で見送ってね。」
そう言うと、彼女は急に苦しみだした。そして最期に、
愛華「あ、そうそう。お父さん。私の葬式は日本であげてね。」
そう言って、母は息を引き取った。少しだけせっかくの雰囲気を壊して、彼女は天に召されていっ
た。