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 「契約ですか?」

 『うむ、契約である』

 「誰と誰がですか?」

 『我と其方であるが?』


 我は、寂れた村で見つけた娘、トワに契約を持ちかけた。

 しかし、うまく飲み込めてはいないようだな。


 「んぐ、んぐ。それって、宗教的な何かですか?」

 『宗教などではない』

 「はぐ、むぐ。じゃあ何ですか?ホクオウさん?は、何がしたいんですか?」

 『それはな……ってこらこら、会話の途中にものを食するのはおやめなさい。まったく、行儀が悪いであろう』


 この娘、マイペース過ぎるであろう。


 『はあ、それにしても先程から何を食しているのだ?』

 「パンですが?」

 『パン?そのカッチカチの物体が?』

 「はい」


 トワが食しているのは、製造してから随分時が経ったと思われる、カビたパンだった。

 そんなものを食して、腹を壊さないのであろうか?


 『トワよ、親や他の村人はいないのか?』

 「両親は物心がついてすぐに亡くなりました」

 『む、それは悪いことを聞いた』

 「いえ、他のみんなは気がついたらいなくなっていました」


 いなくなった?

 どういうことであろうか、消えたということか?

 謎であるな。


「この村の周辺にある森がなんだか騒がしくらしく、魔物が村を襲うかもしれないので他の村に避難しに行きました」

 『魔物?いや、そのようなことのなっているのならば、なぜトワは避難せずにこの村に残っているのであるか?』


 魔物というものはよく分からないが、その話が本当ならば避難するのが普通であろう。

 この村に大切な物でもあるのか?


 「おいていかれました」

 『そ、そうか』


 おおぅ、とんでもないことをさらりと言うであるな。

 我、少しばかりびっくりしてしまったよ。


 『魔物が襲いかかると言うからには、立ち向かおうと考えなかったのであるか?』

 「こんな寂れた村では、一日と持ちません。……と村長が言ってました」

 『では、国に属する騎士やら兵は援軍には来ぬのか?』

 「国のことはよく分かりません」

 『そうか』


 おっと、いくら何でも知らぬか。

 この娘、中々にはっきり受け答えをしてくれるから少々訪ねすぎたか。


 「あ、でも難しいことは分かりませんが、村長がこんな辺境の村、誰も助けになど来ない!って言ってました」

 『ほう、見捨てられた土地か。だから、他の村に避難したのだな?』

 「はい、ですから今はもうこの村は私の村です。そして、ここにある物すべて私の物になると言うことです。もちろんこのパンもです」

 『暴論!すさまじい暴論であるな!ていうか、そのパン人様の物であったのか!』


 いや、このような幼子を一人残していく者たちに情けをかける必要もあるまいか。

 それに、このくらい逞しい者の方が我のパートナーにはふさわしいからな。

 フハハ、良いではないか。

 さすが、我が見込んだ人間だ。


 「それでホクオウさんは結局何がしたいのですか?」

 『おお、そうであったな。我はこの世界に我の存在を轟かせたいのだ!』

 「世界にですか……どうやって?」

 『よくぞ聞いてくれた!まず我と契約者で国を作り、契約者をその国の王にするのである。そして、その国を世界一屈強な国にするのだ!』

 「それはまた。そんなこと本当に出来ると思っているのですか?国ってあれですよ?村がたくさん集まった物ですよ?」

 『もちろんだとも!』


 まあ。いきなり国作りは無理であろうから、最初は村から作るつもりではあるがな。

 おあつらえ向きに、ここに村がある。

 見捨てられた土地ではあるが、トワの村だからな。


 「ん?ホクオウさんが王になるのではないのですか?」

 『うむ、我は人ではないからな』

 「それでは、世界の名を轟かせるのは契約者さんになってしまいますよ?」

 『フハハ、我と契約者は一心同体!契約者の名が上がれば我の名が上がったも同然なのだ。何も問題はない!』

 「そうなのですか」


 フハハ、あまりの壮大な野望に言葉もないようだな。


 「……」


 ううむ?想定していた反応ではないな。

 すごいです!ぐらいの反応は返ってくるとは思っていたのだが……

 何か間違ったか?


 『何か気に入らなかったか?』

 「……」

 『王になれば、チヤホヤされるぞ?』

 「……」

 『とても強い武器を与えてあげるぞ?』

 「……」


 むう、あまり芳しくないぞ。

 なぜだ?

 我、失敗?

 ぐぐぐ、はっ!


 『お腹いっぱい美味しい物を食せるぞ』

 「契約します」


 やっぱりか!

 食い意地張っているであるな!

 なぜそこに食いつくのかは分からない。

 今まであまり食することが出来なかった反動なのかもしれん。


 まあいい。

 なにせ契約することになったのであるからな!


 『では、我の後に続いてくれ』

 「?わかりました」



 そして我は紡ぐ、契約の唄を。


 『我、汝と共に生涯を過ごすことを誓う』

 「……我、汝と共に生涯を過ごすことを誓う」


 我の後に続いて、トワが唄う。

 小さき声でありながら、鈴と響く力強い声はなんとも心地よい。


 『北欧神話の大いなる意思、ホクオウ。大いなる意思の契約者、トワ』

 「北欧神話の大いなる意思、ホクオウ。大いなる意思の契約者、トワ」


 この契約の刻でしか味わえぬ高揚感。


 『我と汝は二つで一つ。二人で一人』

 「我と汝は二つで一つ。二人で一人」


 この唄が、トワを選んだことは間違いではなかったと心の底から我に訴えてくる。


 『そして、我らが野望。“世界に名を轟かせる”必ず成し遂げて見せよう。それが我らの存在意義である!』

 「そして、我らが野望。“世界に名を轟かせる”必ず成し遂げて見せよう。それが我らの存在意義である!」


 そしてまばゆい光が我らを包み込む。


 「ひゃっ!」


 トワが悲鳴を上げるが我慢である。


 我らを光が包んで数秒。

 ようやくあの強烈な光が収まってきた。


 『終わりだ』

 「なんか……すごかったです」


 トワが呆然といった感じで我に伝えてくる。


 ふふん、そうであろう、そうであろう!

 そういう感じの反応がほしかったのである、我は!

 先程のはあまりにも味気なかったであるからな。


 兎にも角にも、これでようやく初めの一歩を踏み出すことが出来たのである。

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