なんか色々間違ってるんだと、思うんです
よくあるトリップものであるが、私はトリップ先を間違ったと心の底から思う。
森の中に、私の暮らす屋敷はあった。
屋敷は大きく、ヨーロッパ風の豪華さ。部屋の天井にはシャンデリア。玄関には赤い絨毯がひかれた階段。
女の子なら一度でも夢見たような屋敷。
しかし、その屋敷の窓には蜘蛛の巣が張り巡らされ、かさかさと巣の主が歩き回っている。
壁もあちこちに亀裂が入っており、その隙間から様々な虫や鼠などが出入りしてる。
廊下の壁に掛かっている沢山の絵は傾き、落ちている物もある。
時折、屋敷の外から聞こえる獣の鳴き声が暗い部屋に響く。
そう、私が暮らす屋敷は屋敷でもお化け屋敷である。
私はそこにトリップした。
何故か、着物姿で。
いや、場違いにも程があるのは理解してる。
何故トリップしたのか。
まぁ、それについてはいい。
昔から夢見がちでいつか違う世界に行けたらなーと日々妄想してたし、元の世界にそれほど執着があるわけでもない。
ちなみに、トリップした原因は事故にあったからだと思う。ここに来る前に車ではねられたことを私は忘れない。あの運転手、許すまじ。
何故、こんな屋敷にトリップしたのか。
うーん、トリップものでも何もない森の中とか砂漠に放り出されるものもあるから、こんな屋敷でも屋根はある。また、獣から身を守れるしまだましな方かなと考えてる。
何故、私は着物を着ているか。
これだよ。これ。私が一番不満を持ってるのは。
トリップしたことも、トリップ先がくたびれた屋敷でもこの際目をつむろう。
しかし、しかし、こんな洋式な屋敷で着物はミスマッチじゃないか。
しかも、着物動きにくいし。
んもー、と不満を撒き散らしながら私は着物の裾をさばいて歩く。
だって、着物は私の商売道具だった。これを着て仕事してたからね。
せめて洋服を着てたら良かったのに。
はぁとため息を吐いて、真っ暗な廊下を進む。お化け屋敷なので電気など既に通ってない。そもそもここに電気などあるのか。明かりは全て火でしてそうだな、と考えながら私はあてもなく屋敷の中をぶらつく。
こんな着物を着てトリップなら、和風な世界にしてくれたら良かったのに。
神様は何を思って私をこんな世界に寄越したのか。
それにしても、私がここにトリップしてきてから随分時間が経ったけど何もない。
普通、誰かが来たりして私を助けたり、誰かと恋に落ちたりするもんじゃないの?
物語の読みすぎだって?
ふん、いいじゃない。夢見るくらい許してよ。
あー、誰か私を迎えに来てよー。
自分が屋敷から出ていった方が確実なのは分かってる。
でも、こんな着物姿で森の中を歩くのは無謀だし。
そもそも私はある事情でこの屋敷から出ることが出来ない。
屋敷から出ることができない以上、私はぼんやりと待つしかなかった。
このまま誰も来なかったら来なかったで、私はそれまでだけど。
誰もいない、真っ暗な部屋で私は窓に張り付いて外を見る。
誰か来ないかな。来ないかなー……
「……ん?……んんんん!?」
べたりと張り付いていたのを更に体を窓に近付けて私は、目を凝らした。
「うそ?人がいる!」
今の今まで来なかった人がいる。
私は信じられないように、窓から下を見下ろした。
私が今いるのは3階の部屋で、そこから森が見渡せる。
いつもここで張り付いてたけど、まさか人が本当に人が来るなんて。
自分でも思ったがこんな森の中にあるお化け屋敷に人なんて来ないと思ってた。
いち、に、さん……にん、か。
私は数を数えてにんまり笑った。
3人も来てくれるなんて、なんて素晴らしいんだろう。
外は雨が降っている。
濡れないよう外套のフードを被っているせいでどんな顔をしているのか分からないが、こういうパターンはイケメンが来たに違いない。
もしかしたら、あの誰かと私は恋に落ちたりするかもしれない。
そして、幸せな日々を暮らすのだ。
よく読んだ物語のように。
私は急いで窓から離れて走った。
早くあの人たちをこの屋敷に迎え入れよう。
ふはは、私の物語は今始まったのよ!
ちょっと痛い発言をしてる自覚はあるものの、私は嬉しくてるんるんで走った。
話し声が近付いてくる。
どうやらあの3人は屋敷の中に入って来たらしい。
私は思いっきり目の前の扉を開けた。
ばたんっ!と勢いが強すぎたのか扉が壊れた。
が、今の私にそんなことはどうでもいい。
「待っ……て、……ぐふ…っ…たよ!」
久しぶりに声を出したせいか、走ってて声を出して変なとこに空気が入ったせいか私の言葉は切れ切れだった。
私の目の前には、フードを脱いだ3人がいた。
あれ、一人は女の子だった。
まぁ、可愛いからいいや。
私を見つけてくれただけでも、私は最高に嬉しい。
「……き」
女の子が口を開く。
私は彼らに近寄った
「……きゃあぁぁぁぁあぁぁっっ!!」
ら、思いっきり悲鳴をあげた。
どうしたの、と心配になって彼女の顔を覗き込むと、ふっと彼女は気を失って倒れた。
彼女を抱き止めた、一人が私を見る。
その顔は真っ青だった。あ、でもイケメン。
「おい!やばいぞ!逃げよう!」
もう一人が、叫んだ。
うん、こっちもイケメン。
「逃げる?」
私は首傾げた。
何故、逃げるの。
貴方達は私を迎えにきたくれたんじゃないの。
彼等は持ってきた明かりを落として、屋敷から出ていった。
あまりの早さに私はポカーンとそれを見送る。
「え?え?」
嘘でょー。
なんで、逃げるの。
彼等が立っていた場所には水溜まりができていた。
明かりがその水溜まりを照らす。
そこには、着物姿の私が写っていた。
それを見下ろして私はやっちまったと思った。
「いやー、待ちくたびれて忘れてた」
トリップした私であるが、問題があった。
「私、事故にあった時の姿だったわ」
水溜まりに写る人は、髪の毛がぼさぼさ。顔は真っ白、額から血がどろり。首はちょっと折れていて変に曲がってる。更に片方の足首はなくて、傍目には片足で立ってる。
なんて、ジャパニーズホラー。
私は事故あったときの姿のまんま。
そのせいでこの屋敷から出られないし。
てか、私ってば幽霊じゃない?
これじゃあ、恋に落ちたり、幸せな日々を暮らすことも出来ない。
ねえ、神様。
なんか色々間違ってるんだと、私は思うんです。
思い付きで書きましたので、おかしいところがたくさんあると思います。