1-44 海神エーギルとフレーセイ島 その1 ガラハドの純情
「昨晩までの大空旅行からまた突然変わったわね~、見晴らし最高だしほとんど揺れないし、快適だわ!!」
直径5mほどに膨らんでいる虹色の透明球の中で腰を下ろし、周りの大海原を眺めながら完全に旅行気分のリーン達である。
「ええ、ホント快適ね!昨日のオーちゃんの酔いも覚めたわ!あの右手に見えるのが伝説の沈没都市『イス』ね?」
「え、どれどれ?あ、ホントだ、ここからでもはっきり分かるほど立派ね~!」
「ちぇっ、お気楽だな~、レーネを取り戻すための作戦でも綿密に建てようとか思わないのか?」
「この先何が潜んでいようと、いまある時を楽しむ、ガラハドみたいに粘着質にずっと物事考えてると、鬱になるわよ(笑)。」
メルが茶化す。
「違いないわね(笑)。」
リーンも口を合わせてそれに相槌を打つ。
《そう、私の家もあの中にあるんです。ノーム達が作り上げただけに作りがとっても堅固で、海底に沈んで何百年か経った今でも全然風化しないんです。》
現在、巨大な緑の鯉となって先導しているアンピトリテは、人語を話せないためにルーン語で語りかけてきた。
遠方にあるのにリーン達の眼からもはっきりそれが見て取れるほど、『水の賢者』により創建されたノームの白亜の都市『イス』はかつて隆盛を極めたその佇まいを現代にも保持していた。
《へ~、海底に沈む伝説の自然都市、ロマンチックね~、今度連れてってもらいたいわ!》
《ホント、でも私達水魔法不得意だから入れないかしら?》
《今乗ってもらってるシャボン玉の水中バージョンもあるから、今度時間があったらそれに乗せて案内しますわ。家にはアンティークのティーセットも全部揃えてあるんですよ。》
《え~、海底でティータイム?おじいちゃんが昔、海底に大きなカプセルで家を作って擬似的にそんな事やってたけど、海底都市の中でもっと間近でお魚さん達を見ながらお茶できるのね!!!素敵!!!》
「突然、何話しだしてるんだ?アンピトリテとか?」
「そうそう、ガラハドのアンピトリテを見る粘着質な瞳のことを話してたのよ(笑)。」
「何を!?ちょ、ちょっと眼が行っちゃっただけじゃないか、全裸だったし、、、。」
「冗談よ(笑)。」
水没都市『イス』を横に眺めること2時間余り、徐々に眼前に巨大な島と城壁、大きな館が姿を現してきた。島の大きさは長手に2km程度、リーンたちの見る角度からはその島が円形なのか、長方形なのか形状を観測することはできない。『ハマツ』のような岩肌屹立する絶壁ではなく、土質の柔らかな揺るやかな丘陵地のようである。そしてその中央にひときわ大きい白亜の居館がそびえている。周辺には深灰色で分厚い城壁も見える。いずれもとても整備されている印象を受ける。その佇まいはいずれも世界の始まりからあるべき存在としてそこにあったかのような安心感と肯定感、重厚感を感じさせた。
《見えてきました?あれが『フレーセイ島』ですよ。我らが海神『エーギル』様の居城。》
《へー、立派な建物ね~。なんかの裁判所とか教会のようにも見えるわね?》
《ほんと、リーンからはじまるこの小説に斜に構えていた私も、なんだかワクワクしてきたわ!》
《えっ?》
「おい、いい加減ルーン語でのやりとりはやめてくれよ、全然わからないよ!」
「ごめんなさい!私、水中だと会話できないので、ルーン語でやりとりしていたの。」
ガラハドが文句を言うと、リーン達を先導していた緑の大鯉の姿のアンピトリテが上半身のみのけぞるような形で海中から身を乗り出して後ろを向いてこう言った。海中から出ると魚類の姿は解けすぐさま人間の姿に戻る。そしてもちろんその美しいゴールドの髪と顔かたち、そしてたわわな胸もガラハドに惜しげもなく見せるのであった。
「わっ、ごめん、そういう事だったんですか、、、。」
赤くなって目を伏せるガラハド。その美しい様は誰の目にも美しく一点の汚れも見いだすことがでいない。
「ふふふ、アンピトリテさんはガラハドにとって目の毒ね(笑)。」
「え、どうしてかしら?」
と言って、ガラハド達に美しい上半身そのままに鯉の尾で水をかき分け近づいてくる。
「いや、いいですよ、オレたちのことは気にしないで『フレーセイ島』まで先導してください。」
「ふふふ(笑)。」
メルが意味ありげに微笑む。
「何だか変ですね?まぁ、いいですよ。『フレーセイ島』まであと少し、ソール五刻(午後2~3時頃)には着くと思います。」
そう言うと、また新たに緑鯉に戻り海原を駆けるのであった。
「ふぅ、、、」
「ガラハドって面白いわね(笑)。」
、、、30分後、、、
「さぁ、『フレーセイ島』に着きましたね。」
アンピトリテは、そう言うとまたガラハド達の面前に裸の体を現し、『フレーセイ島』の周辺を囲う砂浜に人間達の生まれたままの格好で上陸しようとした。
「あ、ちょっと待って。その格好じゃあまりに刺激的だから、これを纏ってちょうだい。」
《ツァオイーライラ》(草の衣)
リーンが簡単に呪文を唱えると、周りの草地から草が独りでに伸び出し織物状の硬い草でできた衣がアンピトリテを包み込んだ。
「あ、あったかい。私、服って着たことないんだけど人間が服を着るのも分かる気がしますね。この服なかなか着心地がいいですね?」
「え、それ着るのか、、、」
「え、どうしたの(笑)?」
「いや、いいんだ、、、。」




