1-136 忌まわしき者の受肉
「ふふふ、『ヴァルキリー』が出てくるなんて。神々が出てくるとちょっと厄介だったから寄り道してちょうど良かったわ。レーネの魂は『アースガルズ』へ運ばれていったようね。」
リーンとメルが静かにレーネの冥福を祈るその後ろ、王政の間の入り口から黒いドレスを着た、黒髪の一人の美しい女性が姿を現す。そして、その後ろには、彼女にかしずくように、ミスリル銀の鎖帷子を着た、紅い瞳の、こちらもやはり美しい少女がついてくる。仲の良い二人と言うよりは、実体と影、人形遣いとマリオネット、主人と下僕、といった印象をであった。
「レ、レーネ!!!?な、なぜ?」
驚くのも無理は無い。さきほどまで神話の一幕の中で静かに天に召されていくレーネをこの眼でしっかりと見届けていたのであったから。
「むぅ、あやつは『時空の賢者』じゃわい!死んだレーネの肉体を乗っ取ったな!!?おまけに『ロキの瞳』を持つ少女まで従えているとは!!!?」
「え、そ、そんな!!?」
もはや何が起こっても驚かないリーンであったが、ロックが告げる衝撃の事実に反応を失う。
それと対照的に、死者を、それも長年にわたり苦楽を共にした親友を、恋人を、弄ばれた事実に、ガラハドとマサムネは怒りの炎を燃やした。
《スーナハン!》(時の死の雄叫び!)
どうっ、レーネの姿をしたアーデルヘイトから問答無用ですぐさま繰り出される殺害魔法。前のめりに倒れ込むガラハド。
「レーネが大活躍してくれて、最後の一押しをしてくれたようね。その上、彼女の絶望を利用して肉体を乗っ取ろうと思っていたのに、あっさりと明け渡してくれるなんて何てよい娘だったのかしら、すごく手間が省けたわ、あははははははは!」
「こ、この野郎~!!!!!」
「あら、あなたニンジャマスターね?どう、この豊満な胸?知ってるわよ、あなたこの娘がほしいんでしょ(笑)、私も久しぶりだしあなたなら申し分ないわ、相手してあげるわよ(笑)。」
乗っ取ったレーネの胸をまさぐりながら、マサムネをからかうように愚弄するアーデルヘイト。復讐に燃えるマサムネは雷鳴のように襲いかかる、が、いつも間に召喚したのか、レティシアの操る『時空の断罪者』がマサムネの攻撃を防ごうと真っ黒い鎌を振りかざす。マサムネは直ぐさま『フロッティ』で黒い鎌を弾き返した。
「くっ、おかしな事になったわい!おい、マサムネとやら、あの灰色の影の持つ武器に触れると、身体ごと存在を消されてしまうぞ!気をつけよ!!!」
「くっそ~!!!」
激昂するながらも、ロックの忠告を聞き一旦アーデルヘイトの目前から飛び退くマサムネ。そして、彼がつい先までいたその足元はロックの言うまま、黒の鎌でえぐられ真っ黒な無の空間をリーン達に見せつけるのであった。
「や~れやれ、今度は何をしでかすつもりじゃ、アーデルヘイト、だったっけ?」
レーネの身体を乗っ取った『時空の賢者』アーデルヘイトと、『ロキの瞳』を出現させた元『ウェールズ』の王女レティシア。最悪のペアとそれに対するすべも全くないリーン達の間に、どこから現れたのか一人の老人が静かに割って入ったのであった。