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野菜士リーン  作者: longshu
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1-14 波乱の夜 その1

『ブローズグホーヴィ』の背中にのって先を急ぐ二人。


これだけの巨馬で大草原を駆け回っているというのに、鞍の上のリーン達はほとんど揺れない。ブローズグホーヴィは蹄で直接地面を蹴っているというよりは、風の精霊『シルフ』達を操ってほとんど滑空するような格好で疾走している。さすがに『風の馬』の贈り名は伊達ではなかった。


《久々に大草原を疾駆横断するぞ、運動不足で退屈だったところよ、ジャムカはよい機会を与えてくれたものだ。》


《え、そうだったの?》


《そうさ。ジャムカの行軍に付き合っていても全力で走る事などほとんどないからな。おぉ、右手の『緑水青山の森』の中央の雄大な『ユグドラシル』を身よ!彼女は相も変わらず世界そのもののように大きく、瑞々しく、そして生き生きとしているな。お前たち中原の国や、ジャムカ達草原の部族、人界の諍いなど全く彼女の関わるところでない。『緑水青山の森』も『ユグドラシル』の恩恵を受けてますますルーンの流脈が豊かになっているようだ。》


『風の馬』は、ジャムカが仕掛けた一連の平定戦で、細かな立ち回りばかり要求されていたため、欲求不満が溜まっていたようである。馬の本性、草原の疾駆を思いのままに楽しんでいる。


「『風の馬』と何を話してんだ?」


「ん、なんでもない、まんざら、彼も私達を連れて行くのが嫌ではないみたいよ。」


「そうなのか。それはそうと、リーン、お前がレーネの『時空水晶』を割っちまったあの時、いったいどんな感じだったんだ?今まで逃亡に次ぐ逃亡でゆっくり聞く暇もなかったが、、、」


「そうね、最強の護衛『風の馬』さんが付いているし、これからは『レボルテ』の勢力圏からどんどん遠くなってしばらく逃げまわる必要もなさそうだし、事の起こりを教えてあげるわ。」


---『ルーアン』に火の雨の降る7年前---


革命国家『レボルテ』の王宮『イスファルド』の魔道研究所で、国を率いる魔道士の中心的存在となりつつあったレーネとリーンは魔道研究に勤しんでいる。魔道研究所はかつて魔道で非常な隆盛を誇った『ウェールズ』王国の研究機関をそのまま受け継いでおり、『ミズガルズ』各地の文献から古文書から、魔道を増幅する触媒から、それ自体魔法属性を秘めた魔器から、『ミズガルズ』の魔道技術の結晶とでも言うべき壮大な設備と数々の品を備えていた。もっとも弱冠 21歳のレーネや 18歳のリーンが研究を担うのだから、装備だけは豊富にあっても『ウェールズ』の魔法技術には未だまったく及ぶべくもないのであったが。


レーネは長い黒髪と細身の身体、黒真珠のように輝く純粋な瞳、男なら誰もが見ればうっとりする、しかし主張しすぎないよく整った顔立ち、360°どこから見渡しても非の打ちどころのない美女そのもので、旧革命軍から引き継いでいる軍部の若い男兵士からは絶大な人気を博していた。しかし『革命軍』の総帥であり父でもあるマキシムが王となった事から、昔なじみのリーンやガラハド達以外には近寄りがたい印象を持たれていた。


彼女は、今日は深紫色のワンピースに身を包み、長い髪を緑白の綺麗な玉で出来た髪留めで後ろで束ねている。深紫色のワンピースの醸しだすうっすらとした妖艶さと彼女自身の持っている清潔さ、相反した二つの要素が相まり、野深い遺跡にひっそりと佇んでいる忘れられた宝具のような秘奥的で魅惑的な雰囲気を醸し出している。多くの人にとって彼女が宝物のように見える事実を知ってか知らずか、リーンやガラハドたちにはとても無邪気に振る舞い、それがまたチャーミングな印象を際立たせていた。


「ねぇ、リーン見て。『イスティファルド』の地下迷宮からこんな水晶を見つけたの。『ロキの経典』によると、神様が、世界の創世に携わった『七賢』達にこの世界を納めさせるために遣わした『真理の顕現』の一つで、『時空水晶』って言うんだって。」


レーネはそういって、自身の前に彼女の頭よりも大きな、あくまでも完璧な真円で真透明な水晶を指し示した。それは宇宙の真理の存在を彼女達がふと連想してしまうほど、空気や水と同じような極めて純度の高い本質性を見た者に印象づける代物であった。


「へぇ~、その”なんちゃら”とか言う神話の中の文句はともかく、綺麗ね~。」


「”なんちゃら”って何よ、『真理の顕現』の内の一つ『時空水晶』よ。文献によると、この世界の物理現象のすべてを司る制御機関で『時の賢者』に与えられた物となっているわ。」


「(笑)私は、自然の中の魔道追求しか興味ないもんね。でもその水晶、きれいなだけでとてもそんな風には見えないわね~。」


と、不用意に触るリーン。完全無欠の球の表面に触れた瞬間、『時空水晶』は電気が走るかのようにその中央に、清廉な川の流れのような緑色のオーラを投影し、ゆっくりと暖かく輝きだした。


「わっ、何これ!」


「ちょっと待って、『ロキの経典』によると、あるサインを決めて触ると、触れた人の魔法特性や深層心理をオーラの輝きや色で現す、とあるわ。ふーん、あなた別にサインもしてないけど突然輝き出したわね、さっきまで私が触ってもなんとも無かったのに、じゃ、私もやってみるわ。」


と、言ってレーネは静かに『時空水晶』に手を掲げた。すると『時空水晶』は”ブーン”と不穏な唸りを上げ、今度は内側表面に赤黒い渦を巻き出す。オーラの一部の流れは水晶の表面をにじみ出して外に流れ出しているようにも見えた。


「ひぇ~、不気味、あんた何か変なこと考えた?こんな不気味な音まで出して、あなたってよほど腹黒いのかしら(笑)。」


「ふん!いいわ、これから『時空水晶』を研究し尽くしてやるわ、その内、太陽の光のようなオーラが出てくてあなたを圧倒するわよ(笑)。でも、戦争も終わったし楽しいことずくめね~、また何か分かったら教えるからね!」


と、レーネは珍しい昆虫を虫かごに入れて興奮する子供のように無邪気に微笑む。


「あなた、魔法にばかり夢中でガラハドに忘れられないようにしなさいよ。あの剣術バカ、いくらあなたが魅力的でも、アプローチを続けないと、きっとまた「あ、こんな超絶技巧の連続突き技を見つけた!」なんて、頭のなか剣術だらけになっちゃうわよ(笑)。」


「大丈夫、明日『イスティファルド』城下町でデートだし(笑)。」


「あらら、抑えるところは抑えてるのね~、ごちそうさまでした(笑)。」


今の『レボルテ』と、リーンとレーネの関係からは想像もつかない、平和そのものな会話であった。

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